胸の奥(中国)




「にーにっ!」

「ハンナ!来たあるか!」


背伸びをしながら目隠しをする手を取ろうともせず、中国は嬉しそうに少女の名を呼んだ。

久しぶりあるなー、と少女を抱き寄せ頬ずりをする中国に、もとより威厳など無い。


「アイヤー、
つい加減を忘れたある。許すよろし」


彼の気も済んだところで、ハンナは持ってきていた手紙を手渡す。

手紙と少女の送り主は彼女の兄に当たる日本な訳だが、中国は手紙を読んで赤くなったり青くなったり忙しいようだった。


「日本は相変わらず手厳しいある…」


げんなりする彼を慰めようと、ハンナはお土産らしい猫のぬいぐるみを差し出した。

白い毛並みにつぶらな瞳、そして赤いリボン。――後に生まれる「シナティ」の起源となる猫だ。


「うわああハンナー!
日本はもう可愛くないある!」

「元気出してにーに…」


「ふ…可愛いのは●ティちゃんとハンナだけあるな…」


中国は猫のぬいぐるみを抱えたハンナごと抱きしめ、日本もあれで昔は可愛い弟だったある、と語り始めた。

落ち着いて締め付けが緩んだ隙に、ハンナは口を掘り起こす。


「あ、忘れてたけど」


 「菊から伝言、"そろそろハンナに本名を明かして下さいね。"」

「にっ!日本んんん!!!」


見上げる顔は、青。


「にーに?」
「ななんでもないあるよー」

「本名って何のこ…」


やっと出てきた口を、強く胸板に押し当てて塞ぐ。

目は近すぎてよく見えないが、中国の服の赤が視界の端で鮮やかにあるのが分かる。


「…にーには我の本名あるよ!」

「だよね。
菊も唐突に変なこと言うよね」

「そうある!日本は変ある!」


汗で湿りだした服の手触りと、やけに早い鼓動に少女は気付いていた。
しかし、彼があることを隠したがっていることも分かっていたため、そのまま胸に収まっていることにした。

にーにという響きは、パンダに付けられるような名前の響きと似ている。


「にーには中国さん、でしょ?」


だから、あながち変という訳でもないだろう。彼の名前は「にーに」だ。

彼女の中では、そんな処理が成されていた。


「日本の名前は菊、
中国の名前はにーに」

「そうあるなー」


本当はにーにではなく、「王耀」という名が彼にはあるのだが。

まだ当分の間ハンナの兄貴分でいたい彼には、とても大切で必要な秘密なのである。







まだ、兄と呼ばれていたい



あきゅろす。
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