今や腰を痛める年となった私にも、幼くて中国さんのお世話になっていた頃がある。その過去から中国さんのことはよく知っているつもりだが、まだ知らないこともたくさんある。
最近では新たに、中国さんには仲睦まじい女性があることを知った。
「中国さんこんにちは」
「日本!よく来たある!」
今日はその女性について、直接中国さんに訊いてみることにした。
中国さんは背中に竹かごを背負い、その中にパンダを入れながら商売の途中。店は大繁盛で忙しそうなのに、わざわざ手を止め駆け寄って来てくれた。
「何か用あるか?」
「ええと。すこしお伺いしたいことがありまして」
そう言って、中国さんが一瞬前までいた場所を見やる。
そこには今まさに中国さんとの関係を訊こうとしている女性がいた。彼女は中国さんに代わって、立派に動いている。
「ハンナがどうかしたある?」
私の視線を追って、中国さんが首を傾げた。いて当たり前の存在、私が気にする理由が分からないといった様子。
「あの方はハンナさんとおっしゃるんですね」
「ん?日本は知らねったか」
頷くと、中国さんは「それなら紹介しなきゃならねぇあるな」と言い、大きな声と手振りでハンナさんを呼びつけた。
ハンナさんは一瞬困った顔をしたが、人を見つけて交代してこちらにやって来る。(……何だか申し訳ありませんね)
「こいつが我の愛人のハンナある!」
「ニィハオ」
「あ…………はい。日本です。はじめまして」
(――――愛人?ハンナさんは妾なのでしょうか?中国さんには奥さんがいて、中国さんは浮気をしているのでしょうか?こんなにもオープンに?)
「日本?ハンナにみとれてるあるか?」
ぽんと爆弾を放られてボーっとしていると、中国さんが訝しげに我の顔をのぞき込んできた。
「いくら日本でもハンナはやらねえあるよ、我の大事なひとある」
この人は何故こんなにケロッとしているのだろう、と思う。しかも隣のハンナさんもそうだ。戸惑っている私がおかしいのかと錯覚してしまいそうになる。
「ハンナさんは……ええと。中国さんの愛人、なんですよね?」
「是。日本はいないの、愛人?」
「あっ愛人だなんてとんでもない!いませんよ、そんなもの!妻だっていません!」
声も宙返りする勢いで私は「愛人」を否定した。ハンナさんは私の言っていることをちょくちょく中国さんに教えてもらいながら聞いていた。
中国さんはハンナさんに言葉を教えながら、はたと閃いたように目を見開いた。
「日本。"愛人"の意味ちがうある」
アイジンとアイルェン
「そ、そういうことでしたか……」
「もう紛らわしいから我の国の意味に合わせるよろし!」
「はあ。善処します」
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