お留守番

 


今日は、私たちが聖十字学園の生徒となる大事な日だ。

坊も、廉造くんも、子猫さんも、皆真新しい制服を纏っている。見慣れない格好をした彼らは、まるで別人のようだった。


「学校には連絡入れておきましたさかい。今日は大人しく寝とってくださいね」

「はい」


私はといえば、未だ寝間着の浴衣を着て布団に潜っていた。こんなときに、とは思うが、風邪をひき熱を出してしまったのである。
私の制服は、平らなままで壁に掛かっていた。(ああ、着たかったな)と未練たらたらに見つめると、坊に寝ていろと釘をさされてしまった。


「みなさんお騒がせしてもうて、ほんまにすいません。こんな日に」

「かまへんかまへん。困ったときはお互い様やて。せやから、俺が風邪ひいたら香子ちゃんに看てもらうし」

「お前は風邪ひかんから大丈夫やろ」

「そんなあ。俺かて風邪くらいひきますて、坊聞いてはります?」


いつも廉造くんのへらへらした笑顔には救われていた。子猫さんは同い年には思えないほど面倒見がいい。私は人に恵まれていると思う。


「香子」

「はい。何でしょう、坊?」

「どうせ明日から毎日着るんや。ちょっとくらい、我慢できるやろ」

「坊が、一日で治せやって。こら頑張らなあきませんな?」

「……うん」


ニヤリと口角を上げながら、廉造くんが坊の言葉を分かりやすくしてくれる。それなりに伝わっていたけれど、坊は優しい。

遅れて坊の方を見ると、坊はふいっと顔を逸らしてしまった。すっくと立ち上がり、子猫さんにだけ声を掛ける。
そして、わざとらしく声の音量を上げて「そろそろ行かんと遅刻や」と言い、廉造くんの首根っこを掴んだ。


「香子。俺に言われんでも、ちゃんと飯食って、薬も飲むんやで。あと体は温かく……」

「坊、遅刻しますよ〜」

「まだ平気やないか子猫さん、好きなだけ坊に心配させたりいや」

「志摩やかましい」


深い意味は無いが、私は坊が好きだ。もうずっと勝呂家にお世話になっているが、坊は常に私を気にかけてくれた。坊は実の兄のような人なのだ。


「ありがとうございます、坊。ちゃんと食べて薬も飲んで、体温めてよく寝て、早く治します」

「おう、そうしてくれ」

「廉造くんと子猫さんもありがとうございます」

「はい」

「どういたしまして」


みんなのことが好きだ。優しさに触れると、ついふやけた笑顔になってしまう。私はこの顔で三人を見送ることになった。


「ほな香子。俺ら行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃい」


私は布団を被り直して、着損ねた制服を見る。大きなリボンが可愛らしくて、着るのを楽しみにしていたことを思い出す。

やはり入学式という特別な日を逃したことは残念だが、熱が出てしまってはもう仕方がない。
それに、坊の言う通り明日からはイヤと言うほど毎日着るのだから。今度こそ諦めて、坊や子猫さんの言いつけ通り眠ることにした。







 


あきゅろす。
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