4.1 午後12時




「んっ、あぁ………」


よく眠った気がする。伸びをしている内に、だんだんと意識がはっきりしてきた。
そして、間もなく鮮明になった景色が私はどうしても信じられず、まだ眠っているのかと目をごしごし擦った。


「起きた?」


会議室で意識を失ったはずの私は、何故か川沿いの道のベンチに座って眠っていた。しかも、スヴェーリエの膝枕で。


「ごっ、ごめんノルウェー!私…… ?」

「………ノルウェー?」

「え?」


ノルウェーと呼ぶと、スヴェーリエは訳が分からないとでもいいたげに眉をひそめた。(あれ、なんだろうデジャヴュ?)

だってスヴェーリエの体にはノルウェーがいるのだと、フィンから聞いたばかりだ。
ノルウェーの体にはスヴェーリエがいて、アイスの体にはデンマーク、デンマークの体には………


「……寝ぼけてんなぃ。もちっと寝てもええど」

「いや、その、本当に……」


それまでに起きたことを全て話したのだが、ちっともピンと来ないようだった。
まだ寝足りないのだろうと、頭を優しく撫でられ、またスヴェーリエの膝を枕に寝かせられてしまう。


「スヴェーリエ?」

「……ん?」

「……なんでもない」

「そか」


このスヴェーリエは完璧スヴェーリエで、ノルウェーではない。

私はこれ以上何も言わず、例の数時間の記憶を幻として、そっと胸の奥にしまい込むことにした。
仮に入れ替わりが起こっていたとしても、なんだかんだで無事に戻れているのだ。スヴェーリエがあのことを覚えていようがいまいが、今更どうでもいいことだろう。


「こうやって二人でのんびりするのも、久しぶりだね」

「……んだな」


ノルウェーと入れ替わっていたスヴェーリエ。彼との散歩の約束は、入れ替わりが無くても交わされていたかもしれない。


「ハンナ、あれは本当け?」

「なに?」


例の嘘だって、最初から身も心も本物のスヴェーリエに(私やノルウェーが)吐いてたかもしれない。


「ややができたっつう話だ」

「だ、誰が?……誰の?」

「おめえが、ノルの」


…………………あれ?


「なにそれどこから聞いた?!」

「今朝、おめから聞いたど」


目が回る。
当事者であるスヴェーリエの記憶も無いし嘘だったと思おうとしていたのに、今になって打ち消されたのだ。私は前言撤回し、あれの真偽を気にしだした。

突然私が赤くなって慌てだしたため、スヴェーリエは更に疑いの色を濃くする。子供なんかできていないのに、「……ハンナも、母親になるんだな……」と私のお腹をしげしげと見つめていた。


「ちっ、違うってば!ないないない絶対ない」

「…………あ?」

「嘘だよ、だって今日はエイプリルフールだったでしょ?!」

「えいぷりる……………」


その単語を聞いて、スヴェーリエはようやく納得したようだった。表情には表れていないが、電球ピカン!くらいはなっていてもいいと思う。
スヴェーリエは何となく安堵してすっきりしたような雰囲気で、すっくと立ち上がると私に手を差し出した。


「行ぐか」

「行くって、どこに?」

「フィンちだ。飯皆で食う話になっどる」

「そしたら手伝わなきゃ、早く行こ!」

「………ん」


結局のところ、みんなが入れ替わったあれは嘘だったのか、本当だったのか。
スヴェーリエは案外お茶目さんだから、忘れたふりをしているかもしれないし、私の夢だったのかもしれない。今回の件については、簡単にどちらかに決めつけられるものではない。

でもきっと、フィンや他のみんなにも話を聞けばはっきりする。私は一刻も早くこのモヤモヤを晴らしたくて、スヴェーリエの大きな手を引っ張って走った。











夢と現のダンス


「さすがに何度も魔法使うのはしんどいぜ……」

ハンナとスウェーデンのいなくなったベンチに座り、イギリスは一人息を切らしていた。
懐に仕舞う星のステッキから、光の粉がわずかに零れ落ちた。

「この二人で終わりだな。――まあ、それなりに面白かったな、奴らの慌てよう。」




あきゅろす。
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