「んっ、あぁ………」
よく眠った気がする。伸びをしている内に、だんだんと意識がはっきりしてきた。
そして、間もなく鮮明になった景色が私はどうしても信じられず、まだ眠っているのかと目をごしごし擦った。
「起きた?」
会議室で意識を失ったはずの私は、何故か川沿いの道のベンチに座って眠っていた。しかも、スヴェーリエの膝枕で。
「ごっ、ごめんノルウェー!私…… ?」
「………ノルウェー?」
「え?」
ノルウェーと呼ぶと、スヴェーリエは訳が分からないとでもいいたげに眉をひそめた。(あれ、なんだろうデジャヴュ?)
だってスヴェーリエの体にはノルウェーがいるのだと、フィンから聞いたばかりだ。
ノルウェーの体にはスヴェーリエがいて、アイスの体にはデンマーク、デンマークの体には………
「……寝ぼけてんなぃ。もちっと寝てもええど」
「いや、その、本当に……」
それまでに起きたことを全て話したのだが、ちっともピンと来ないようだった。
まだ寝足りないのだろうと、頭を優しく撫でられ、またスヴェーリエの膝を枕に寝かせられてしまう。
「スヴェーリエ?」
「……ん?」
「……なんでもない」
「そか」
このスヴェーリエは完璧スヴェーリエで、ノルウェーではない。
私はこれ以上何も言わず、例の数時間の記憶を幻として、そっと胸の奥にしまい込むことにした。
仮に入れ替わりが起こっていたとしても、なんだかんだで無事に戻れているのだ。スヴェーリエがあのことを覚えていようがいまいが、今更どうでもいいことだろう。
「こうやって二人でのんびりするのも、久しぶりだね」
「……んだな」
ノルウェーと入れ替わっていたスヴェーリエ。彼との散歩の約束は、入れ替わりが無くても交わされていたかもしれない。
「ハンナ、あれは本当け?」
「なに?」
例の嘘だって、最初から身も心も本物のスヴェーリエに(私やノルウェーが)吐いてたかもしれない。
「ややができたっつう話だ」
「だ、誰が?……誰の?」
「おめえが、ノルの」
…………………あれ?
「なにそれどこから聞いた?!」
「今朝、おめから聞いたど」
目が回る。
当事者であるスヴェーリエの記憶も無いし嘘だったと思おうとしていたのに、今になって打ち消されたのだ。私は前言撤回し、あれの真偽を気にしだした。
突然私が赤くなって慌てだしたため、スヴェーリエは更に疑いの色を濃くする。子供なんかできていないのに、「……ハンナも、母親になるんだな……」と私のお腹をしげしげと見つめていた。
「ちっ、違うってば!ないないない絶対ない」
「…………あ?」
「嘘だよ、だって今日はエイプリルフールだったでしょ?!」
「えいぷりる……………」
その単語を聞いて、スヴェーリエはようやく納得したようだった。表情には表れていないが、電球ピカン!くらいはなっていてもいいと思う。
スヴェーリエは何となく安堵してすっきりしたような雰囲気で、すっくと立ち上がると私に手を差し出した。
「行ぐか」
「行くって、どこに?」
「フィンちだ。飯皆で食う話になっどる」
「そしたら手伝わなきゃ、早く行こ!」
「………ん」
結局のところ、みんなが入れ替わったあれは嘘だったのか、本当だったのか。
スヴェーリエは案外お茶目さんだから、忘れたふりをしているかもしれないし、私の夢だったのかもしれない。今回の件については、簡単にどちらかに決めつけられるものではない。
でもきっと、フィンや他のみんなにも話を聞けばはっきりする。私は一刻も早くこのモヤモヤを晴らしたくて、スヴェーリエの大きな手を引っ張って走った。
夢と現のダンス
「さすがに何度も魔法使うのはしんどいぜ……」
ハンナとスウェーデンのいなくなったベンチに座り、イギリスは一人息を切らしていた。
懐に仕舞う星のステッキから、光の粉がわずかに零れ落ちた。
「この二人で終わりだな。――まあ、それなりに面白かったな、奴らの慌てよう。」
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