アイスのやつ、いっつもこんないい思いしてんだなあ。と、スヴェーリエの体に入ったノルに未だ首根っこを掴まれながら思っていた。
もし今の体が俺なら、ノルの行為は容赦なくタイを引っ張るなどの暴力に及んでいただろう。
「さて、わいわいするのも大概にして……どうやってみんなを入れ替えるか、だね」
「そもそもなして入れ替わったかも気になんな」
そもそもなして入れ替わったかも気になんな
「なあノル、そろそろ放してやったらどうだ?」
ねえノーレ、そろそろダン放してあげたら?
そしてハンナも、アイスの体であったからこそ、抱きついてきたわけだ。ぎゅうぎゅうと押し付けられる胸に、俺は彼女の成長を感じざるを得なかった。
二度と味わうことの無いであろうあの柔らかな感触は、まだ胸板に残っている。
こんな幸せな思いをしておいてお咎め無し、なのに毎回拒む(結局口だけだが)とは、アイスはどれだけ贅沢者なんだ。
「そういえばハンナちゃん、昨日電話切る前に何か見たって言ってなかった?」
「……何か?」
……何か?
「そうなんです、何か―――」
ノルの体に入ったスヴェーリエは、眼鏡が無くて落ち着かないようだった。しきりに目の周りに触れている。
「―――ああ、あれ?」
ハンナは入れ替わりによりややこしくなった俺達と微妙に距離を起き、フィンの側に座っていた。
俺はフィンになっていても幸せだったかもしれない。今はスヴェーリエだが、ノルはさほどフィンを睨まないのだ。この状況だからか?とも思ったが、それなら俺もとっくに釈放されているはずだ。
「犯人。イギリスでしょ?」
あまりにもケロッとした表情で言い放ったので、全員唖然とした。ハンナはまったく沈黙を気にしていない。
「本当にさらっと言ったな」
ほんとにさらっと言ったね、ハンナ……
「何でこんないたずらしたかは分かんないけどね」
狂っている俺の腕時計が、小さくピピピ、と鳴った。びくっと驚いた後、俺の体にいるアイスが慌ててそれを止めた。
「どうやって戻るか、かあ……」
「魔法で入れ替わったんなら、魔法で戻れるんじゃない?」
魔法で入れ替わったんならよ、魔法でまた戻れんでねの?
「あ、私やってみようか?スヴェーリエと喧嘩して改宗するまでよくやってたんだよ、魔法」
「本当?」
おお!おめすげえな!
ハンナはいい笑顔で手を挙げた。
しかし、(ノルの顔である為分かりづらいが)スヴェーリエがかなり引きつった表情をしたのが気になる。
「……おめのは魔法っつーより呪いだべ」
……おめのは魔法っつーより呪いだべ
「呪いに特化してるだけだよー、できるできる!」
「で、それどーやってやんだ?」
戻れるならどっちでもいいんじゃない?どうやるの?
「えーっと、まずね………」
それから少しして、俺達はまた机に向かって黙り込んでいた。ハンナの魔法が却下されたのだ。方法を聞いた途端、瞬時に。
そりゃ、暗い地下に閉じこもり魔法陣の中で呪文を聞きつつ裸で三日三晩互いの血のみを口にして過ごす――なんて聞けば当然だろう。気色悪すぎる。
「イギリスさ探しに行ぐか」
イギリスさ探しに行ぐか
「ぼ、僕も行きますスーさん」
「私もー」
「……とりあえずおめえら、その物騒なもんは置いてけ、な?」
とりあえずその武器は置いていってね
電話を掛けても繋がらず、フランスなどに訊いてもイギリスの居場所は掴めない。スヴェーリエとフィンの二人で捜索隊が結成され、いよいよ出発というときだった。
突然、目の前でフラッシュを焚かれたように目が眩む。そしてそのまま、意識が遠退いた―――……
おやすみ
どこからか、イギリスの声が聞こえてきた気がした。12時になった途端、入れ替わった4人が一斉に倒れる。
フィンが混乱している間、私はぐんにゃりしているノルウェーの体を引きずって、椅子に座らせる。そして窓の外を見ようと立ち上がろうとした瞬間、強烈な眠気に襲われた。フィンはもう眠っていた。
「ふーっ、あぶねえあぶねえ」
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