4.1 午前10時U




「でれでれすんな」
でれでれすんな。


気付けばもう俺は椅子に座っていなかった。自分が今スヴェーリエの体であることも忘れ、アイスの体のデンと奴に抱きついていたハンナを引き裂いていた。


「ス、スヴェーリエ……?」


アイス(デン)の首根っこを掴む俺を、ハンナは酷く驚いた顔で見つめている。もちろん何故かは分かっていた。
いつもハンナと男を引き離すような行動をするのは必ず「ノルウェー」だが、今その「ノルウェー」は席で微動だにせず傍観している。動いたのは「スヴェーリエ」。それはさぞ意外なことだろう。


「どうしたの、スヴェーリエ?」

「ハンナ、おめはちょっと黙ってれ」
……ハンナ、おめはちょっと黙ってれ。



ハンナは大人しく俺の腕に収まりながら、「変なスヴェーリエ」と微笑んだ。少々強く抱き締めてもハンナはまったく抵抗せず、むしろどこか嬉しそうに俺の体に掴まっている。
……かなり複雑だが、ハンナはスヴェーリエに対しては(フィンにもか)素直で、異性というより家族という印象が強いためだろうが、普通に甘えてくるらしい。俺はそれが羨ましいと、よく思っていた。


「ちょっとくらい良いじゃん、ノーレのケチ」
ちょっとくらい良い思いしたっていがっぺよ、ノルはケチだなぁ!

「うっつぁし。……あんにゃ知っどるけ?ハンナは俺の嫁だ」
やがまし。……あんこ知っどるけ?ハンナは俺の嫁だ

「……独占欲強すぎるよ」
……おめは独占欲強すぎんぞ。

「何とでも言え、―――」
何とでも言え、―――


アイス(デン)とスヴェーリエ(俺)という、見た目には異色の睨み合いを遮ったのは腕の中のハンナだった。
ハンナは度々中身がスヴェーリエの俺を気にしながら大人しくしていたのだが、どう見てもスヴェーリエの俺が「俺の嫁」呼ばわりしたことに反応したようだ。


「――あのね、ハンナちゃん」

「フィン。今日みんなおかしいみたい、どういうことなの?」

「うん、実は君を呼んだのはこの事件のためなんだ」


フィンは宥めるように穏やかな口調で、ハンナに入れ替わりのことを説明した。目が覚めたら皆入れ替わっていて、無事なのは二人だけであること。誰と誰が入れ替わっているのか。
そうしてハンナは、今朝嘘を吐いた相手はスヴェーリエで、挨拶代わりに抱き締めたのはデンで、今自分を抱き締めているのは俺であると理解した。


「そしたら私はデンをぎゅーってすればいいの?……それはそれで抵抗が」

「どういうこと?」
何で!

「無理はしなくていんだけども」
別に無理して抱き締めようとしてくれなくていいよ。

「私の可愛いアイスがよりによってデンと入れ替わってるだなんて……!!」

「………」
まあ誰とでも嫌だけど。

「ちょっとそれどういう意味!」
おい!それどういう意味だ?!












嘘のような、真実


(……え、待って、ということは私スヴェーリエにあんな嘘吐いたの………!?)

「ハンナちゃん?!」

「は、恥ずかしいっ…………!!」




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