「でれでれすんな」
でれでれすんな。
気付けばもう俺は椅子に座っていなかった。自分が今スヴェーリエの体であることも忘れ、アイスの体のデンと奴に抱きついていたハンナを引き裂いていた。
「ス、スヴェーリエ……?」
アイス(デン)の首根っこを掴む俺を、ハンナは酷く驚いた顔で見つめている。もちろん何故かは分かっていた。
いつもハンナと男を引き離すような行動をするのは必ず「ノルウェー」だが、今その「ノルウェー」は席で微動だにせず傍観している。動いたのは「スヴェーリエ」。それはさぞ意外なことだろう。
「どうしたの、スヴェーリエ?」
「ハンナ、おめはちょっと黙ってれ」
……ハンナ、おめはちょっと黙ってれ。
ハンナは大人しく俺の腕に収まりながら、「変なスヴェーリエ」と微笑んだ。少々強く抱き締めてもハンナはまったく抵抗せず、むしろどこか嬉しそうに俺の体に掴まっている。
……かなり複雑だが、ハンナはスヴェーリエに対しては(フィンにもか)素直で、異性というより家族という印象が強いためだろうが、普通に甘えてくるらしい。俺はそれが羨ましいと、よく思っていた。
「ちょっとくらい良いじゃん、ノーレのケチ」
ちょっとくらい良い思いしたっていがっぺよ、ノルはケチだなぁ!
「うっつぁし。……あんにゃ知っどるけ?ハンナは俺の嫁だ」
やがまし。……あんこ知っどるけ?ハンナは俺の嫁だ
「……独占欲強すぎるよ」
……おめは独占欲強すぎんぞ。
「何とでも言え、―――」
何とでも言え、―――
アイス(デン)とスヴェーリエ(俺)という、見た目には異色の睨み合いを遮ったのは腕の中のハンナだった。
ハンナは度々中身がスヴェーリエの俺を気にしながら大人しくしていたのだが、どう見てもスヴェーリエの俺が「俺の嫁」呼ばわりしたことに反応したようだ。
「――あのね、ハンナちゃん」
「フィン。今日みんなおかしいみたい、どういうことなの?」
「うん、実は君を呼んだのはこの事件のためなんだ」
フィンは宥めるように穏やかな口調で、ハンナに入れ替わりのことを説明した。目が覚めたら皆入れ替わっていて、無事なのは二人だけであること。誰と誰が入れ替わっているのか。
そうしてハンナは、今朝嘘を吐いた相手はスヴェーリエで、挨拶代わりに抱き締めたのはデンで、今自分を抱き締めているのは俺であると理解した。
「そしたら私はデンをぎゅーってすればいいの?……それはそれで抵抗が」
「どういうこと?」
何で!
「無理はしなくていんだけども」
別に無理して抱き締めようとしてくれなくていいよ。
「私の可愛いアイスがよりによってデンと入れ替わってるだなんて……!!」
「………」
まあ誰とでも嫌だけど。
「ちょっとそれどういう意味!」
おい!それどういう意味だ?!
嘘のような、真実
(……え、待って、ということは私スヴェーリエにあんな嘘吐いたの………!?)
「ハンナちゃん?!」
「は、恥ずかしいっ…………!!」
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