学校を卒業し、本格的に裏の世界へ入って早数年が過ぎた。
I miss you.
あなたに会いたい
勢いというか、成り行きで親父の跡を継いだは良かったが、そういうのが嫌いで何も知ろうとしなかった過去の俺。
裏のことなんか何も分かっていなかったから、初めは痛い目にもたくさん遭った。
だが、今はキャバッローネがどういう存在なのか把握できているし、俺自身、かなり仕事もできるようになった。(ちょっと恥ずかしいが、"跳ね馬"なんて通り名まで付いている)
まだまだリボーンにはへなちょこと呼ばれ、修業等世話になっているが、守られてばかりだったあの頃とは違う。
(どうしてっかな、ひたき……)
俺はふと、ひたきのことを思い出した。独り机に向かいながら、物思いに耽る。
中学生の身ながら、最強と謳われるボンゴレの暗殺部隊・ヴァリアーの幹部候補として活躍していた彼女。
親父の生前の依頼がきっかけで知り合い、彼女に惚れてしまった俺は、任務が完了した後も、警護という形を取って、中学時代は殆ど一緒にいてもらっていた。
彼女は大層仕事熱心な人だった。仕事をすればボスが褒めてくれる。しかし、仕事をしなければボスの側にいられない。そう言って、彼女は必死だった。
(会いたい……)
彼女のすべてだった男――ヴァリアーのボス・剣帝テュールは、スクアーロとの決闘に敗れ亡くなったと聞く。彼を殺したスクアーロもまた、彼女の大切な人間だった。
大切な人が大切な人を殺す。間近にいて、彼女はどんな思いを抱いただろう。
俺は数年前に別れてから一度も、彼女のことを忘れたことはなかった。
「ボ、ボス!!大変です!」
「うおっ?!何だぁ?!」
テュールの跡には、ボンゴレ9代目の孫だというXANXUSという男が就いたらしい。
この話を聞いたとき俺は、果たして彼女がXANXUSの元で働けるのか疑問に思った。彼女が機械のようになってまで仕事に没頭していたのは先代のため。その先代は今や故人、もういない。しかもその先代を殺した男も側にいるのだ、やる気も精神状態も危ういはずだ。
「どうした?取引現場張ってたはずだろ。他の奴らは」
「ターゲットは全員ひっ捕らえました。俺以外は下にいます。それより、大変なんです!」
会えないひたきの身を案じる中、その話が耳に飛び込んできたのは数日前のこと。
ヴァリアーの新たなボス・XANXUSが、スクアーロ達若手を率いてボンゴレ9代目に対する暴動を起こしたのだそうだ。――そして、その中にはひたきらしき女の姿もあったらしい。
彼女の消息は事態の収拾と共に掴めなくなり、今は誰も行方を知らないまま。相当な傷を負っていた彼女の生死も、明確にはされていない。
「ボス、いいですか。落ち着いて聞いてください」
俺は、出会った日の彼女を思い出していた。あの手負いの獣のような姿。誰も信じられず、ひたすら痛みに堪える姿を。
今もそうして独りどこかに身を潜めているかもしれないし、もしかしたら……。そう彼女の安否について考え出すと、俺はいつだって居ても立ってもいられなかった。
出もしない情報を求めたり、部下に探しに行かせたりした。自分で探しに行こうともしたが、そのたびにリボーンや部下達に「お前はボスなんだ」と叱られ、屋敷すら出られないことも多々あった。
「……ひたきのことか……?」
「……はい」
「何だ?生きてるのか?!今どこに―――
「ボス!落ち着いてくださいと言った筈です!」
こいつは絶対に話を盛ったり、勿体ぶったりしない男だ。だから俺は、必ず何か決定的なことが聞けるに違いないと思い、焦ってしまったのだ。
俺の「坊ちゃん」時代を知らない部下に大きな声を上げられて、俺はようやく我に返った。
「とりあえず、下に」
ひたきがいる……そんな期待に早まる胸を抑えながら、俺は彼の背中を見つめ階段を降っていった。
(太陽はどこを照らしているの?)
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