Monodrama





「………ひたき!!」




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一人芝居




ひたきの夢を見た。
ひたきがどこかへ消えてしまう夢だ。

言い知れない不安が胸に立ち込めた。

あれは夢なのであって、現実のひたきはちゃんと下の部屋にいる。普通ならそう考えもう一眠りするところだ。


夢の影を払うため、一目ひたきの寝顔を見に行くことにした。

俺の杞憂ならひたきは扉の向こうで眠っているはずだが、一応ノックをする。もちろん中からの返事はない。音を立てないようそっと扉を開くと、すうっと冷たい夜の風が吹き抜けた。ぶるりと体が震える。


(まじかよ……)


闇色に染まったカーテンが、夜風と踊っている。
月明かりに照らされたベッドは、どう見たって空っぽで。しかも、居る様に見せ掛けようとした形跡もなかった。


気付けば、次の瞬間には体が動いていた。窓枠に手足を掛け、一気に外と内との境に上る。
着地の形はどうであれ(華麗に降りられたら格好良かったのだが)、俺は無事、誰にも気づかれず屋敷を抜け出した。


それからひたきのことだけを考えひたすら歩いた。一心不乱に歩いた。
頑張れば頑張るほど屋敷は小さくなる。今はもう影すら見えない。しかし、未だひたきとは出会えていなかった。

そりゃそう簡単に会えるとは思っていなかったし、考えなしに飛び出してきたけど、それなりの覚悟はあるつもりだった。……けど、段々冷静になって、不安も膨らみだしていた。


「っわ!!」


そして、止めの転倒。
ついに心は折れて、もう起き上がる気力もない。俺はため息を吐きながら寝返りして、夜空を見上げた。

運悪く打った顎がジンジンと痛む。
ひょっとしたら、このままひたきは見つからないのかもしれない――…そう思った瞬間、涙が伝うように一つの星が流れた。



「笑って、ディーノくん」



突然のフラッシュバック。

はっとして飛び起きた。どうしてもっと早く思い出せなかったんだろう。あの歪んだ影と優しい波の音は、一度だって忘れたことは無かったのに。



「ディーノくんが笑うから、海は輝くの。お願い、笑って?」

「……………」

「それじゃ、約束」

「約束?」




俺は全力で走った。
走った先に必ずひたきはいるから。

ふてくされて伏していた俺は、もういない。



「私がどうしようもなく悲しくなった時は、必ずここへ帰ってくる」




「『そしたらディーノくん、きっととびきりの笑顔を見せてね』……今がその時なんだな、ひたき?」















(勝手なことして、馬鹿みたい。でもきっとあなたなら来てくれるって信じてる)





あきゅろす。
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