撫でたいあたま(鳳)




「あの、ちょうたろうくん」


今日の部活は解散となり部員達が続々と帰っていく中で、聞き慣れない声に呼ばれて振り返る。声の主は、数学の忍足先生の娘さんで忍足先輩の噂のコイビト(ほんとはイトコだった!)エアさんだった。


「あ、エアさん。なんですか?」

「実は折り入ってお願いが」

「はい、何でも言ってください」


跡部さんや忍足先輩と話しているときの肝の据わった態度とは大きく違い、どこかそわそわしたかんじのエアさん。


「頭撫でさせてください」


(何それ?!)


「…俺なんかのでよければ」

「ほんとですか!」


うん、謎だ。

彼女の手が届くように背中を丸めて頭を差し出すとそろりと遠慮がちに手が伸びてきて、ゆっくり撫でた。

こうして頭を撫でられるなんて非日常的なことだが、彼女に撫でられると不思議と落ち着くような、いい気持ちがした。(俺の前世は犬か何かだったのかもしれない。)


「ありがとうございましたー」


顔を上げると、ばら色の微笑でエアさんが俺に礼を言った。とても満足げな顔をしている。

俺はペットのように相手の頭を撫でるという彼女の行為への戸惑いと、案外喜んでしまった自分への驚きにすこし複雑な思いでいるのだが。


「エア、おばちゃん来たで」

「あれ侑士」


「今日はお疲れさまでした。」


忍足先輩にエスコートされて、エアさんは氷帝テニス部から去っていった。笑顔で手を振り返してくれるエアさんの隣で、忍足先輩が舌打ちをした。ような気がした。


「またねちょうたろうくん」

「はい、きっとまた来てくださいね!」



愛撫の記憶
(俺らも帰るか長太ろ…、熱か?)
(なななんでもないですっ!!)




あきゅろす。
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