立海のお姫さん(跡部と忍足)




「おい忍足」


「ん?」

「はい?」


見ているだけで目が疲れそうな赤と、青みがかった黒の頭が並ぶ。振り向いた二つの顔に、俺の整った眉がひくりと脈打った。

(……ややこしい。)舌打ちの後にそう呟いて、溜め息をつく。


「お前だ、女。」

「女やなんて乱暴な呼び方すんなや。俺のスウィートハニーやで」

「誰がスウィートハニーや」


俺は忍足(…丸眼鏡の方、)が下心丸出しで肩を抱いている、この女の名前を知らない。だから、他に呼びようがないのは当たり前のことだろうに。


「立海のお姫さんは怖いなあ」

「そのお姫さんゆうの止めえ言うてるやないの」

「ええやんお姫さん。王者立海大なだけに」


立海の制服を着た赤い髪のこの女は、眼鏡の従妹だという。…しかし、今「忍足」がこの場に同時に2人もいるとは面倒この上ない事態だ。


「跡部さん、私も面倒なので名前で呼んでください。」

「はあ?こいつにエアが名前で呼ばれるなんて冗談やないわ」

「…『エア』だな」

「あ」


いとこ同士でも結婚できる現代のこの世の中だが、彼氏面するこいつの過保護もここまで来ると気持ちが悪い。


「区別するためなんやったら名前呼びは俺に、」

「意味分からん、落ち着き侑士。深呼吸や」


確かにエアは仮にも氷帝ナンバー2の血縁者であるだけ見た目は悪くねえが……。


「ところでお前、何で氷帝に来た?」


やっとのことで偵察にでも来たかと本題を切り出すことができた。(そういえばそうや)と、今更忍足がはっとした。


「母に呼ばれたんです。帰りに一緒に食事したいとかで」

「それでついでにこいつに会いに来たと。」


何故今の今までごく自然に他校生…しかもテニス部に関わる人物がここにいたのかといえば、確実に忍足のせいだ。


「エアが初めから氷帝入っとったら俺もエアのおかんも助かるんやけどなあ」

「母親を先生とは呼びたくなかったの」


遠くから、向日やジローをはじめとするレギュラー達の興味の視線が届いていた。

忍足は普段、休憩時間にデレデレしながら電話したり、こっそり待ち合わせして会ったりしている。その分、奴らのエアに対する興味の強さは尚更なのだ。

――さて、こいつら全員に大人しく練習を再開させるにはどうしたものか。








噂の忍足♀



あきゅろす。
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