思わぬ被害




「どんなときに妬くか?」



日本さんから届いたメールの一部分を読み上げて、私は首を傾げた。

私たち北欧の仲の話をしてから、何か感じるものがあり彼は漫画を描きだしたらしい。それで時折こういった質問のメールが届くのだ。



「私、妬いたことなんてあったっけ……?」



いつもは即答したり、ちょっと電話して訊き答えたりするのだが、私に対するこの問は少し難しかった。

猫が私より先に相手のにおいを嗅ぐとか、私より先に相手が幼いアイスを構っていただとか、そういうことではないらしいからだ。



「あ、――――」



パッとイメージが駆け抜ける。
それはつい最近、ノルウェーが女の子と歩いているのを見かけたときのものだ。

しかし、その女の子というのは明らかにアイスだったので(うまくごまかされていたが、私には分かる)、何か感情を抱く暇もなかったのだった。



「妬いてはいないはず、だけど、要はああいうシーンで……ってことだよね」



ノルウェーと一緒になる前にも遡ってみるが、スヴェーリエもフィンも私にとても甘かったので、やはり妬いた覚えがない。

日本さんが訊きたいのは多分浮気のボーダーラインだろうと考えたが、ノルウェーの浮気など想像できずやはりダメだった。



「北欧ってデンマーク以外シャイだったり人見知りだったりするしなぁ……」



あまりにも例が出ず、私の脳内は(ああ、だからアイスに女装させたのか)と脱線していた。そこまでして妬かせようとしたノルウェーが微笑ましくなって、不覚にも和んでしまった。



「なんて答えようかな」



もしノルウェーやみんなが、男でも女の子でも好きになったとしたら、私はあっさり認めてしまえそうな気がする。

だって、みんなが誰を愛そうと私がみんなを愛していることは変わらない。みんなが幸せなら、なおよしということで。



「こうなれば最後の手段だ」



(お話の都合の良いように妬かせてください。リアルな私は妬いたことがないのでわかりません)とそれだけ書いて、私はメール作成画面の送信ボタンをクリックした。



「ハンナ、日本から漫画届いてっぞ」

「本当?」



それからしばらくして、私の頭からあの悩みに悩んだ長い時間が消え去った頃、日本さんから漫画が届いた。
ちなみに彼の漫画は毎号北欧の各家に届けられ、読み終わった後はみんなで「日本はこういうのうめえなあ」なんて話している。



「俺先に読んだから、ん」

「じゃあ私も。……何じろじろ見てるの?」

「………なんも」

「変なの」



意味深なノルウェーの視線に首を傾げながら、私は日本さんの描いた漫画を読み出した。その号が例の話とも知らずに―――



「えぇえ!!」



その後しばらく、私はひきこもった。













二次元の聖地・日本より



「ハンナちゃんって妬かないから新鮮だったよ」

「おめも案外大胆なー?」

「えーと二人とも、漫画は飽くまでフィクションですからね!……あーあ、後で日本さんに言っておかなくちゃ」

(こうやって漫画がリアルになっていくんだなぁ……)





あきゅろす。
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