「神田もよく毎度毎度探しに来るねえ、暇なの?」
「なわけねェだろ。」
本部への帰り道をなぞって走る、汽車の中。
任務と任務の合間を縫って彼女を探し教団に連れ戻すのが神田ユウ一人の役目とされたのは、一体いつの日からのことだろうか。
「どこに行っても神田が迎えに来てくれるの、嬉しいな」
「馬鹿かお前は。探す方は面倒くさいんだぞ」
「馬鹿だけど…バ神田に馬鹿なんて言われたくないね」
「…そんなに面倒ならさ、他の人に任せればいいじゃない?」
彼女が任務一つ終える度に失踪しなければ済むことなのだが、もはや神田にそんな根本的なことをツッコむ根気はなかった。
「他の奴じゃあ、お前は一生見つけられねェよ。」
「うっわ、どこから来るの?その自信は」
「じゃあ訊くが、俺以外の奴に連れ戻されたことあんのか?」
これでもかとばかりに、不敵に笑う神田。どこか優しささえ感じ取れるこの表情は、彼女だからで。
「……ない、けど。」
「ほらな。」
「あーバ神田のくせにー!」
ちょっとだけ悔しそうに照れた顔。何にも元気に笑い飛ばす彼女のこの表情も、やはり彼だから。
ふたりが田舎で乗ったこの汽車もどんどん本部に近付いていく。喋り疲れたかえではつい1時間ほど前から、うたた寝をしていた。
(神田の隣はね、どこにいるより安心するんだ。)
眠れない神田はふと、以前彼女に言われた言葉を思い出していた。
かえでは初め神田と向かい合って座ったのだが、先ほどわざわざ神田の隣に座り直し、これでよし!と満足げに言うと神田の肩にそっと寄りかかっていた。
このようすを見ると、まんざら嘘でもないようだと良い気持ちになる。肩にほどよくかかる頭の重みに、神田は口角をゆるやかに上げた。
「ユウ」
眠ってからの行動はおそらく本人の意識とは無関係なのだろうが、膝に置いた手に重ねられた手から伝わる彼女の体温が熱く感じられた。
「………
寝言でまで、恥ずかしい奴」
空いている右手で頬杖をつき、神田はそっと瞼を閉じた。願わくは、この熱が永遠に続く夢が見られますようにと。
「好……」
「…かえで…?」
「ちっ、寝言かよ」
神田は面倒なこの役目を、憎めずにいることに気付いた。
(あともう少しが何故言えないんだ、馬鹿)
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