矢(holic/百目鬼)




小さな紙袋をひとつだけかかえて走っている。制服をまとった少女の行く先から、一瞬の音が何度も聞こえた。

彼女の息はすでに切れていた。
もともと体力がないのと、焦りと、思い当たるふしは多々ある。

(すぐに行くだなんて、どうして言っちゃったんだろう!)

今にも涙の湧いてきそうな感覚を目におぼえながらやっとついた、弓道部の道場。


「遅ぇ」

「ど、百目鬼くん…。」


彼女が手をかけるよりも早く襖はスパンと素早く開いた。はっとして顔を上げると、仏頂面がひとつこちらを見ている。


「ごめん!
これ、遅刻のお詫びのおやつ!!」

「……シュークリーム。」

「お詫びというか一緒に食べようと…ああっ!」


彼は無言でそれをふたつ、頬張った。可愛らしくふくらんだ頬がゆれている。
呆気にとられた表情で「ああっ!」と言う彼女のことは、気にしない。


「…これ四月一日がつくったやつだな」

「そうだよ、おいしかったでしょ」


半開きの目で拗ねたようすの彼女に、百目鬼は「いつも通りだけどな」とだけ言い、
また弓を拾って、引いては放つ動作をくり返した。



「次はお前がつくったのを持ってこい。パウンドケーキがいい。」


「…わかった……。」







 


あきゅろす。
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