夜霧讃歌(holic/遥)




じゃり じゃり 石と石の、擦れる音。
霧の生んだみずみずしい空気を、うっとりと吸いこみながら歩く。





銀の空気のむこうから、おいでおいでと声がする。私にはその人が一体どこにいるかわからないから、勝手に歩く。


「無視とは意地の悪いことをするね」


いきなり手首を掴まれ、全身にびりびりと電流が走った。落ち着いて見ると、見慣れた縁側に見慣れた男が和服を着て座っていた。


「……静?」

「残念。」


思い当たる名前を出してみると、その男は穏やかにわらった。「私は遥と言って、彼の祖父だよ」と教えられ、ああ、と素直に納得した。
彼のやわらかさに、まったくの別人であることを気付かされたからだ。


「静は良い子にしているかい?」

「ええ、遥さんとはまるで反対の良い子に。」


にこにこわらっていると、遥さんの体温があるようなないような手がゆっくりと大きく私の頭をなでまわした。


「これからも静を宜しく頼むよ。」


それから急にまた、あたりがすべて銀色になった。白い月だけが、かろうじて見える。

彼も彼の手の感触もなくなり、私は深い眠りに落ちたようだった。




また会いたい。

銀の霧の夜の、
あのやさしいひとに。






 


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