背中に恋をする(謙也)




「エアはこれから帰るん?」

「いやふつうに謙也さんちに泊まるよ?」

「さよか、ゆっくりしてってなー」


「…って今初めて聞いたわ」


思わずノリツッコミ。エアはけろりとして(あれ、知らんかったん?)と言う。

俺の家族は事前にエアが大阪に来ることを知っていたらしい。そういえば心なしか今朝、両親も弟も皆ちょっと嬉しそうにしていたような気がする。


「久々に一緒に寝るねー」

「は?」

「侑士は寝相良すぎて怖いんだ」

「ちょお待てや」

「なっつかしいなあ」


(やいやいや。無防備すぎるやろこの生き物。)

何だかいとこが年々ボケてきているのは気のせいだろうか。女と男の境界線の意識が最低レベルしかないような。心配だ。



「小学の頃ようおんぶしてくれたよね。」

「エアがしょっちゅう寝坊するからやろ?」

「そいや私いつも寝坊しよるのに遅刻知らずやったなあ」


俺の脚力の一部はあの頃から鍛えられていたのかもしれない。
小学生の頃、寝坊したエアを背負って走った朝の道が目に浮かび上がる。当時は自分の親にもエアの親にも「謙也はエアのお兄さんやさかい、」と言い聞かされて頑張っていたっけ。


「『謙也さんもっと速くー』」

「言ってたー」

「お陰で今や浪速のスピードスターやっちゅうねん」

「あはは」


「そのお陰で私は背中フェチかなあ」

「う、うそやん」


うっとりしながら(ちいさんの背中よかったなあ)と語るエアを前に、俺の頭の中のよからぬ妄想はどうでもいいことになりつつあった。



「お前、誰彼構わず一緒に寝てんやないやろな」

「してへんよ。
一緒に寝るんは侑士と謙也さんだけ。」


「…侑士もやめときなさい。あれは変態と聞く」

「ふーん。
じゃあ謙也さんは?」

「………俺はええのや」




背中に恋をする



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