ラブルスの継承者




「そういえば人足りひんなぁ」


きょろきょろと辺りを見回すエアちゃん。(ああ、爽やかなシャンプーの香りや…エクスタシー…)(はっ!意識が飛びかけた)


「あ、おったおった!」


何が足りないのかと聞こうとすると彼女は一所に視線を落ち着けた。


「小春とユウジくんってほんま仲ええなあ」

「エアさんの表現はユルいっすわ。あれは『キモい』ゆーんですよ」

「そういうこと言っとるから叱られるのや光ちゃーん」

「いたたたた」


(乳!否、胸当たってんでエアちゃん!!)脇に財前の頭を抱え込んで、ぐりぐりとグーをねじ込む。大したダメージは無いだろうに、財前は低い声で痛がっている。


(…いや、あれはかなり痛いんやで白石)

(どこが?)


(あいつあれで力強いねん)


急にシリアスになるケンヤ。
その真実味を匂わせる血色の悪さは本物だった。


(人は見かけによらんばいね)


間もなく沈んだ財前はさておき。


視線の先には新作のギャグの試しとかで練習試合中の小春とユウジ。その相手をしている銀さんと小石川。
そしてコートの脇で腹を抱えて爆笑している金ちゃん。(金ちゃん単純やから、よう笑うわ)


「謙也さん部室どこ?光ちゃん休まさな、熱中症やねん」

「多分それ熱中症ちゃうと思う…」





そして。

エアちゃんがあまりに羨ましそうにゲームを見ていたものだから、予備のラケットを与えてみた。


するとどうだろう、眩いばかりの輝き。……の後の、「謙也さぁーん」。(ヘコむやろ。)




「ダブルスやらん?」

「なんでまた」

「私も『小春ぅ!ユウくぅん!』みたいなの一回でいいからやりたいねん」

「、はあ」


やはり気心の知れた仲なのだと遠くから見ていてしんみりする。というか、あんなに無邪気な――好みピッタリな子相手に謙也はよく堪えられていると感心していた。


「安心し、習ってきたから大丈夫や。師匠達に。」

「待て待て、師匠誰」

「ほんなら相手見繕ってくるね」

「ちょっとは話聞いても損は無いとオニイサンは思うのやけど」


ヘコんでいる俺の前に再び現れたエアちゃんは謙也を引き連れて、ダブルスのゲームを持ち掛けてきた。

(ラフプレーはありやんな?)ぎらりと目を輝かせて見るのは、嫉妬の矛先でもある謙也。(無しや無し!どないしたんや聖書!!)そんなツッコミも馬耳東風。本気の度合いの高さ故だ。


「あー…財前行くで」

「俺っすか」

「見てみい、千歳は観察モードや」

「ま、しゃーないっすわ」






(何てことや、聖書と呼ばれ完璧なテニスをしてきたこの俺が…)




「エア〜」

「謙也さぁ〜ん」


あのイトコ…いやバカップル。
やってくれる。

(作戦か素か…マジっぽくて腹立つわ…!!)


「小春、ユウジくんどうー?!」

「まぁ合格ラインやなー!」

「後はもっとくっつくことよー!」

「お前ら何教えてんねんー!」


ラインのすぐ側では恐らく「師匠」である小春とユウジがうんうんと頷いている。
確かに対戦相手のペースを狂わせるという点ではしっかり彼らのワザを継いでいると言っていいだろう。


「後で覚えてろよ謙也…小春…ユウジ…」

「…部長、なんとなく分かりますけどボール取らなあかんとちゃいます?」


(あと歯軋りとか耳に残りそうなんで止めてもらえます?)ギリギリとグリップに爪を食い込ませる俺の後ろで、財前が走っていた。


「らぁぶっ(c)小春&ユウジくん、っとー。
蔵くん偶には返してねー?」


「エアちゃーん!次は俺とエクスタシーなダブルス組もうなああ!!」

「あ・か・んっちゅー話や!この浪速のスピードスター及びエアの従兄である俺が許さへん!」


(あああ、とことん邪魔な奴やな!お前からのストレスのせいで俺の健康が損なわれたらどないするつもりやねん!)


「…光ちゃん次組む?」

「俺はこれからの人生においてエアさんとダブルス組みたいっすわ」

「「抜け駆けか財前ん!!」」



惑わしのダブルス



あきゅろす。
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