四天宝寺、立海到着からしばらく。
「エアが東京に染まってしもたあああっっ!!」
相変わらずエアは、故郷の友人らに囲まれたままだった。
「ケンヤさん落ち着いてください、ここ神奈川っすけど」
「やかましわ!どっちでも大した変わらんやんけ!」
ただ様子は一変していた。立海の仲間の前なので関西弁を封じるエアに、謙也が騒ぎだしたのだ。
「エア、ちょっとこれ読んでみ」
「"関西電気保安協会"。で?」
「なっ……。節が無い……やと……!!」
関西人なら節なしには読めないという言葉も、すらすらと読んでしまうエア。謙也はますますショックのようで、段々オーバーリアクションになっていった。
「け、謙也さん、急にどうしたの?」
「エア……お前はいつ関東の人間になったんや?俺は悲しいで!関西の、大阪人のソウルはどうしたんやっっ!」
大絶叫の謙也の口を、エアは慌てて塞いだ。――が、もう遅かった。
「えっ!エア先輩大阪の人だったんすか?!」
赤也がキラキラと興味津々な目をして駆け寄ってきた。エアは謙也の口を塞いだまま、分かりやすく苦い顔をした。
「あれ?切原くん知らんかったん?エアちゃんは正真正銘大阪生まれ大阪育ちやで」
「いやぁ、関西圏出身じゃないのに関西弁使う奴もいるから先輩もそれかと思ってたんすよ!あと先輩、よく大阪行くしたこ焼き好きだし、大阪かぶれ、みたいな!」
エアが自分の出身地について語らず、方言さえ封じ続けていたのは切原のためだった。
「ねね、エア先輩エア先輩!撃ったふりとか斬ったふりしたら、エア先輩もノるんすか?」
「しないよ……」
この偏見による好奇の眼差し、騒ぎ、質問責めなどが嫌だったのである。
「…………謙也さんのせいだからね、赤也がこんなにうるさいの」
「す、すまん」
珍しく感情を露わにするエア、それに驚き黙り込む赤也。そして赤也につられて謙也もクールダウンした。
「ところでみんな、練習しないの?テニステニス」
少し離れたところで、なんとなくエアの出身地について気付いていた仲間たちは「やはりな」だとか「方言だと仁王君と被るからだと思っていました」だとか、好きに喋っていた。
「ああそれなんやけどな、俺らが今日こっち来たのんは練習の為やないねん」
「え?ユウジくんそれどういうこと?」
「信じられへんかもしれんけど、真田くんが"練習試合という名目で、エアに会いに来てやってくれ"って言ってきたのよ〜」
エアは真田のいる方へ振り向いた。真田は少し照れくさそうに微笑んで、エアを見ていた。自称エアのオトン・一氏がムッとするほどの父親っぽい表情だった。
「あれ?でもそれなら光ちゃん、昨日の晩電話したときに言ってくれればよかったのに」
「言ったらドッキリになりませんやろ」
「ど、ドッキリだったの……」
これで今朝からかかっていたもやが全て晴れた。立海の仲間も四天宝寺の友人らも、誰一人としてラケットを出してこないこと。真田が練習の相手を教えてくれなかったことも。
「エア、びっくりしたと?」
「うん」
「そんならよか!」
千歳の明るいニッとした笑顔に誘われて、気付けばエアも笑っていた。ここのところ何となく感じていた心の空虚感が満たされていくような感じがした。
「みんな、遠いところわざわざ来てくれてありがとう」
「何言うとるん?俺らはエアに会いたぁて来たんや、礼ならあいつらに言うたりいや」
謙也が指をさした方向を見てみれば、そこには普段から一緒の仲間たちが集まってエアを見守っていた。
「みんな、おおきに!」
エアは仲間に向かって素顔をさらけ出すというのが非常に気恥ずかしく、顔を真っ赤にさせていた。
「顔なんか赤くして、まったくかわええやっちゃなお前はぁぁ!!」
「わっ?!苦し、謙也さん、ちょっと!」
「あ!ケンヤばっかりずっこいわ!!俺もエアちゃんに抱きつきたい!!!」
「ゴルァ白石!!何俺の娘にセクハラしようとしとんねんシバくど!」
「おい待てユウジ、何でケンヤは良くて俺はあかんねん!」
「アホ、お前は不審者やろ!はよ小石川に逮捕されろや!」
「はあ?!ていうかその不審者設定いい加減止めへん?いじめ格好悪いで!」
四天宝寺がエアを巻き込んだ身内ネタでわいわいしている間、立海は完全に置いてけぼりを食らっていた。
「俺らも家族設定とかやるか?」
「丸井先輩、エア先輩と家族になったら結ばれないっすよ」
「禁断の関係……近親相姦ってやつじゃな」
「……仁王君、自重したまえ」
ありがとう
「エア先輩、俺らも家族設定考えたっす!」
「ふーん」
(……何で私だけ他家?)
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