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「出て行きなさい」

静かに、けれど確実な憤りをたたえた当主の声が 通った。

「精進する心得の無い者は当家に必要ない。出て行きなさい」

慌てて 貴一が間を割ろうとしたが、父は最後まで譲らずにそう言い切った。

「……俺は最初からそのつもりだったよ…。父上は、鴇を選べばいい。」

シギは開け放した襖を潜りぬけ、一度も振り返らずに出て行った。

「鴫様…!」
貴一が シギの後を追う。出て行く寸前に 中を振り返った。
きっと 付いて来ると思って留まってくれたのだろう。しかし自分は シギの言葉に息を飲んだまま立ち尽くしていた。
貴一は憐れむような悲しそうな目を見せて、最後は父を責めるように見てからついに出て行った。

「………………」

何か言わなくては思った。
きっと自分と同じぐらい、否これ以上に 父は衝撃を受けているはずだ。
シギは知っていた。もしかすると先刻 誰かに聞いたばかりだったのかもしれない。
だとしても、どうして……あんな言葉を…。

「……鴇、休憩だ。少し休みなさい」

声を出そうとした瞬間、先を越されてしまう。
再開する時刻だけ告げ、父も出て行ってしまった。

一人、どこにも行けず 道場の真ん中で天井を仰いだ。





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