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蒼の狭間
7 沼田健亮side
「君の云う通りにしたよ。これで良いの?」

電話越しに聞こえる声はどこか笑いを含んでいるようだった。生徒会室へ行かなければならない佑への苦肉の策として生まれた案を、副会長たる多岐野はあっさり受け入れた。君もついてくれば良いのにと心底残念そうに嘆いたことは聞かなかったことにしている。勉強は1人でする派、というのはあながち嘘でもないのだ。

「佑の様子はどうだった?」

「落ち込ませちゃったかも。」

「───は?」

剣呑になるこちらの声に動じることなく、人の気持ちって複雑だよね、のほほんとそう云った男に生じる苛立ちをなくす術があればぜひともご教授願いたいと思う中、声音をがらりと変えた多岐野は期待したいな、と呟いた。

「期待?」

「うん。長谷川君は良い子だね。」

目を細めて穏やかに笑う多岐野の姿がみえた気がした。

「───渡里君もね、良い子なんだよ。幸せな笑みが似合うって信じてるんだ。」

「……へえ。」

その物言いにどこか引っかかったが、深く追求することは出来なかった。体育祭でみかけた、仲の良さそうな2人の様子が脳裏を過ぎる。胸に溜まる澱みを、唇を噛みため息を逃すことで誤魔化した。

「あんたが佑に何を期待してるかは知らねえし、知ろうと思わないけど──佑は、決して鈍くはない。引き際もそうじゃないところも心得てるって、俺は思う。」

多岐野は何も云わなかった。息を吐くように笑みを零し、それでも、何も云うことはなかった。

「俺、あんたに訊きたいことあるんだけど。」

妙な雰囲気を払拭させるため、わざと声に怒気を滲ませた。実際、少々腹が立っていることも確かだからわざとというのは語弊があるかもしれないが、今はどうでも良いことだった。

「何で加原先輩が俺とあんたに関わりあるって知ってんだよ!」

「え?加原?健亮君、加原と話したの?」

「喰いつく所が違えよ!」

惚ける気かこいつはと再び苛立ちが襲う。問い詰めようと開いた口は、多岐野の発言でそのまま固まってしまった。

「──ああ。それね、僕が話したからだよ。」

「は……話した?何で?」

「え…加原は風紀委員長で友達だから?」

どうしてそんなに驚いてるのと不思議そうに訊かれ、口を噤む。基本的に王道において、生徒会と風紀は仲が悪い。現に生徒会長と加原先輩は学園の二大トップのような位置付けで間違っても仲が良いとは言い難い。しかし、多岐野のあの性格ならば加原先輩と友人関係を築いていても何らおかしくはないことに気がついたのだ。

だからといって、それで納得できるわけが無い。

「友達だからって話す理由にはならないだろ──ってまさか──。」

「君の想像通りだと思うよ。健亮君に何かあって僕だけじゃどうしようもないとき、加原があらかじめ知っていれば早く助けられるからね。」

生徒会役員の多岐野が動けないことなど滅多にないだろうが、風紀が動いた方が良いときだってある。彼はその可能性を指しているのだろうが、それでもまだ、心は納得できないでいた。

「……そこまでしなくても…もう、会わなきゃいい。」

多岐野はその言葉に、らしくなく鼻で笑った。

「馬鹿だね。僕は加原──友人を利用してでも君と会いたいって、そう云ってるんだよ。」


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