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覚えちゃいない

「きっと覚えていらしてね。」

いつぞやの少女はそう言いました。覚えていらしてね。覚えていらして。数回口の中で反芻する。ああ確かに覚えています。その名前の少女なら覚えています。確か柿が好きだった女の子でした。背の高い柿の木は渋いんだと得意げに話し、甘くて美味しい柿ばかり私にくれたっけ。着物の裾をちょいと上げて、村で一番高い木に登り、降りれなくなったあの子。野原で白い花冠を私に編んでくれたあの子。川で笹船を流して遊んでいたら、自分ごと水に落ちて溺れたあの子。笑うと方えくぼが出来たあの子。おてんばさんだけど、どこか詰めが甘いあの子。全部、全部あの日々は覚えている。

「きっと私のこと覚えていらしてね。」

あの子が少し大きくなって、街へと出て行く時に言ってくれた言葉でした。もちろん、私は今でもあの子のことは覚えています。すべて、全部覚えています。あの子は覚えているんです。ところで今目の前にいるこの女は誰なのでしょうか。例の、柿が好きだった少女の名を語るこの女はどちら様でしょう。さっぱり思い出せません。だいいち、こんなに髪が長くて、身長の高い女など知り合いにいるわけがないんです。あの子は肩までの髪で、背だって私の腰あたりでしたんです。

「覚えていらしゃいますか?」

深く刻まれた方えくぼが印象的な女は言った。





覚えちゃいない


私にはアナタが誰だかさっぱりわからないのです。泣くのはよして下さいな。私はアナタに何も悪いことはしちゃいませんので。ああそういえば今年もあの子は帰って来ませんでしたね。






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きっと妖怪のが忘れちゃうパターンがあると思うんだ。
覚えているけど、覚えちゃいない。
主人公は追々判明して行きますので、今はご想像にお任せで(^o^)/
2010.6.20




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