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ホウセンカ




それからのことは覚えていない。
気がついたら家に居た。


あのときの光景。
幸村先輩の言葉。


思い出すだけで胸が苦しくなって。
頭がそれ以上考えることを拒否する。





私、これからどうすればいいんだろう…








次の日。

休む理由をあれこれ考えたけれど
結局、登校することにした。






休み時間になって
教室から外の景色を眺めていると。


「名前ちゃん 」


幸村先輩が笑みを浮かべて
私に話しかけてくれる。


「今日は天気もいいことだし、外でお昼なんてどうかな」


本人はうまく笑えてるつもりなんだろうけど
微笑み方がぎこちない…


きっと昨日のこと心配して
無理に笑ってくれてるんだ



何時ものように気遣ってくれて−



「…先輩」



そう考えたら、凄く胸が苦しくなって



「ん?」




「もう私に話しかけないで下さい」




これ以上、傍には居られないと思った




大きく目を見開く先輩の横を
早足で通り過ぎ、教室を後にした。






それから何度か教室にやって来た先輩を
私は一言も話すことなく避け続けた。







放課後。


下駄箱へ向かう途中。

壁に背を預け静かに佇んでいる
人物の姿が目に入った。

一瞬、ためらったけれど。
平静を装ってその人物の前を通過する。


「待って」


通り過ぎた後。
背後から聞こえる制止の声。

先輩の声に歩みを止めることなく
その場を立ち去ろうとしたら。


「ねぇ どうして俺を避けるのかな」


腕を掴まれる。


「…っ、」


振りほどこうにも
男の人の力に敵うわけなくて。

あっさり逃げ道を塞がれる。


視線を合わせることなく俯いていると。


「俺は名前ちゃんにとって迷惑な存在?」


少し低い声色で、先輩が問ってくる。


一呼吸分、間をあけて
ぶんぶんと首を横に振る。


「じゃあ名前ちゃんの傍に居たいって思うのは迷惑?」

「…っ」


返答に困る私を見て先輩が再び口を開く。




「俺じゃ仁王の代わりになれないかな」




その言葉を耳にした途端、



「雅治の代わりなんて言わないで!!」



咄嗟に声を荒げてしまう。


剣幕に圧倒される先輩から目を反らし
小さく呟く。



「代わりになんて…なれるわけない」


「…名前ちゃん」




お願いだから、




「もう私に近寄らないで下さい」



そう言い放つと腕を握る手に力が入った。




「それでも俺は君の傍にいたい」




強い想いが言葉を通して触れた肌を通して
痛いほど伝わってくる。




だけど、




「私は先輩の気持ちには応えられない」




傍にいてもきっと傷つけるだけだから
それならいっそ−



「もう付きまとわないで下さい。私は一人で居たいんです」



関係を断つ方がずっと楽




振りほどこうと力を入れた矢先、
腕が解放される。


「それは本当に名前ちゃんの本心なのかい?」


自由を得た腕の代わりに
鋭い視線が再び私をとらえる。


「もし俺を気遣って言ってるなら。それは余計なお世話だよ」


いつもの温厚な雰囲気はなくて
少しだけ怖さを感じた。



だけど、ここで引く訳にはいかない



「私がこれ以上苦しい思いをしたくないから言ってるんです!!」



優しい、優しい幸村先輩



「先輩のためじゃない!!勘違いしないで!!」



きっとこうでもしなければ



先輩はいつまでも自分を犠牲にして
私を気遣ってくれる


苦しい想いをしてまで
傍にいてくれる義理はないんだから−




「先輩の優しさは私を苦しめるだけなんです…」




もうこれ以上


私のために傷つく先輩を見たくない






私の瞳をまっすぐ見つめた後
静かに目を伏せ、言葉を紡ぐ。




「どんなに自分を偽っても」




耳に残る心地よいトーン。


そして、もう一度
私の瞳をまっすぐに見つめる

澄んだきれいな瞳。




「俺には通じないよ」



「…え?」




すべてを悟ったかのようなその瞳に




「だって俺は本当の君を知っているから」




釘付けになる。




「だからこそ、名前ちゃんを好きになった」




「な、に…言って、るんですか…?」


「名前ちゃんのこと、隣で見続けてきたんだ。解らない筈ないだろう?」


自慢げにそう言うと私の頭を撫でながら、




「残念だけど、そう簡単には君を嫌いになれないよ」




今まで見たことないくらい
綺麗にそして優しく微笑むから。


鼓動が早くなる。





いつも私の不意をついくる先輩



今も、私の思惑を見事に見破って
優しく微笑んでくれてる



本当に不思議な人



だけどそれ以上に



「…バカ。幸村先輩の大バカ者」



先輩の優しさが全身に伝わってきて。
涙が溢れだす。


「はは、ひどい言われようだな。でも、そんな顔で言われたら怒るに怒れないね」


頬を伝う涙を拭ってくれた。


「気を遣わせちゃってごめんね。だけど嬉しかった」


そう呟いて。
私の顔を自分の胸へと埋める。



そのままでいいからと前置きの言葉を述べて。


「聞いてくれるかな」


鼻声になりながらも
その問いに応える。


「…はい」


ぽんぽんと優しく頭を叩いてくれた後に。




「俺は名前ちゃんが好き」




そう小さく呟いた。
瞬間、胸の辺りが痛くなる。


「……気持ちは嬉しいですけど…」



これだけは
きちんと伝えておかなければならない



「私はきっと、雅治以外好きにはなれない」



たとえ、幸村先輩を傷つけるとしても



「…解っていたことだけど。口に出して言われるとやっぱり辛いな」


はは、と苦笑を浮かべて。



「一筋縄じゃいかない、か」



呟いた次の瞬間、私の髪を口許に持っていき、




「仁王の代わりになるって言ったけど、やっぱり取り消すよ」




そっと口付ける。


「え?」


その行動に胸が高鳴った。



「今は俺を見てくれなくても構わない」



髪から視線を離して
私の瞳を真っ直ぐとらえる。



「だけど、いつか振り向かせてみせる」



視線が交わって。



「仁王なんかに負けない」



強い意思が伝わってくる。



「俺が仁王のこと忘れさせてあげるから−」



再び口づけを受けた私の髪は
先輩の手から滑り落ち、はらりと宙を舞った。




「覚悟しておいてね」






きっとこれは、宣戦布告





でもどうしてだろう?




不思議と、






「臨むところです」





嫌じゃない





正直、雅治を忘れられる自信は
全くといってない




だけど、





先輩の言葉に




賭けてみたいって




思う私が居たんだ−





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