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トリトマ




「…どうしたんですか?」


放課後。

花壇の前で何やら作業をしている
先輩を見かけ声をかける。


「ああ、名前ちゃん」


「そろそろ植え替えが必要かと思ってね」
「それ全部ですか!?」


先輩の横に置かれたプランター。
ざっと100は越えている。


「みんな張り切って咲いてくれたからね。去年より数が多いんだ」


どれも凄くキレイに咲いていて。

幸村先輩からたくさんの愛情を受けたんだなと
一目見ただけでわかった。


「これも名前ちゃんが美化委員に入ってくれたお陰かな?」

「え?!」


想定外の言葉に素っ頓狂な声をあげると
先輩はフフ、と微笑んだ。


もう、調子狂っちゃうよ…



「あの、私も手伝いますよ」
「いや、いいよ。大変な作業だし」
「一人でやる方がもっと大変です。それに−」


「何時も助けてもらってるお礼がしたいんです」



その言葉に目を丸くした先輩だったけど。

気にしなくていいのに、って
苦笑しながら呟いて。

でもどこか嬉しそうな表情を浮かべた。



「じゃあ、お言葉に甘えようかな」








「ふぅ、やっと終わったね」
「はい」

「名前ちゃんが手伝ってくれたお陰ではかどったよ。ありがとう」

「いえ、そんな…」


ほとんど先輩が一人でやったようなもので。
お礼を言われる程、私は役に立てなかった。


「おっと、もうこんな時間か」


その呟きに同じく時計に目をやると。
既に6時を回っていた。

時計から目を離すと私の方に顔を向ける。
視線を合わすとふっと微笑んだ。


「手伝ってくれたお礼、させてくれるかな?」
「お礼、ですか?」


うん、と呟いて。


「家まで送らせて欲しい」
「あ、えっと…」


申し訳ないなと思って断ろうとしたけれど。


絶対送るよ、という圧力のかかった
雰囲気を醸し出す先輩を前に
何を言っても無駄だと察した私は、


「ありがとうございます」


素直に甘えることにした。


そしたら凄く嬉しそうにうんうんと頷くから。
不覚にも可愛いなって思ってしまった。


「あ、でも教室に忘れ物しちゃったんで、ちょっと取ってきます」








後になって。

この時 忘れ物なんて
取りに行かなければ良かったと。

心の底から後悔したんだ。









階段を上って。
自分のクラスに差し掛かった時。


ふと、足を止める。


完全に閉まりきっていない教室のドアから
夕日に照らされて伸びる二つの影。


あれ?こんな時間に誰かいるのかな?


忍び足でそっと教室に近づいて
ドアの直ぐ横に辿り着くと
開いている隙間から、そっと中を覗く。




!!




そこで見たもの。






口づけを交わす男女の姿。
見覚えのある、その姿に。



凍りづけになる。






夕日を浴びてきらきら輝く銀色の髪。







見間違いだって。


人違いだって。





思いたかったのに。








「雅治…」







私の耳に届く、愛しい人の名前。
何度も呼んだ、貴方の名前。










見たくなんてなかった










涙が、




溢れる。










「もう泣かないで」






突然後ろから抱き締められて。








「俺がずっと名前ちゃんの傍にいる」







唱えられるコトバ。











お願い、









「俺が仁王の代わりになるよ」










もうこれ以上 優しくしないで−












止めどなく溢れてくる涙は

空っぽになった心を満たすことなく




静かに流れ落ちていった−









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