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センニチコウ




私の心とは裏腹に今日も天気は快晴で。

悔しくなって。



雨が降れって呟いた。






「ん〜この雨じゃ部活は無理かな」


まさかほんとに降るとは…


「ごめんなさい」
「どうして名前ちゃんが謝るんだい?」


私が念じかけたせいかもしれない


そう考えたら申し訳なくて。
顔を上げることが出来なかった。



そしたら幸村先輩は、


「逆に雨に感謝しなくちゃ」


って呟いた。



「え?」
「お陰で名前ちゃんと一緒に帰れるから」


嬉しそうな笑みを浮かべて。
私に手を差し伸べてくる。



「家まで送るよ」








「…なんて言っておきながらすまない」
「いえ、」


幸村先輩が傘を持って。
私がその隣を並んで歩く。


「傘、持ってきておけば良かったな」
「仕方ないですよ、急な雨ですし」


傘を忘れた先輩と
こうして相合い傘をしているわけで。



仕方がないとは言え
ちょっぴり恥ずかしい。




「なんだか新鮮だな」
「え…?」


突然の言葉に目を丸くする。


「名前ちゃんとこうして並んで帰ったこと一度もなかったから」

「そう、ですね」




新鮮、か…



ふと町並みに目を向ける。



貴方も同じようにその言葉を呟いた



自然と浮き彫りになってくる思い出に
そっと瞳を閉じる。







あの日も急な雨で。


傘を持ってきてなかった雅治と
一緒にこの道を通った。


あの時も。


相合い傘をして−






『新鮮じゃのう』


突然、ぽつりと呟くから。


『何が?』


どうしたんだろうって思って聞き返した。
そしたら徐に口を開いて。


『好きな子と相合い傘して帰るのは』


なんて。顔色ひとつ変えずに言うもんだから。
顔がみるみる内に熱くなっていく。


『〜っ、』
『顔、真っ赤ぜよ?』
『雅治のせいだよっ、ばか』




その時はまだ


繋いだ手が離れるなんて


思ってもみなかった








「嫌じゃないかい?俺と相合い傘なんて」


幸村先輩の声で。
現実に引き戻される。


「え…」


思い出に浸り過ぎた。

急な質問に何て答えたらいいのか
戸惑ってしまう。


「俺は嬉しいかな」


そんな私を見かねてか、先輩はそっと口を、開く。


「なんだか、恋人どうしみたいで」
「…っ」


俯いた私を見て、はっとなる先輩。


「……すまない…、無神経だったね」
「いえ……」


少し沈黙が続いて。




「大丈夫?濡れてない?」


先輩が話題を変えてくれる。


「平気です」


その気遣いに応えたくて。
顔を上げる。

瞬間、私は大きく目を見開いた。


「幸村先輩、肩!」


私の隣にある肩とは反対の肩。
雨に濡れて変色している制服。


「ん?ああ、」
「何で言ってくれないんですか!!」


傘を伝う滴が私の制服を濡らすことなく
地面に静かに落ちていく。


「女の子を濡らすわけにはいかないからね」


なんで私なんかのために−…


「もう…」


鞄から急いでタオルを出し、先輩の肩を拭く。


「名前ちゃんは優しいな」

「優しいのは幸村先輩の方ですよ」
「え?」


タオルを握る手に力を込める。



「いつも私を気遣ってくれて、」


今だって。

私が濡れないように
傘を傾けてくれていた。


「凄く嬉しいです」


「そんな…俺の方が嬉しいよ?」
「何でですか?」


どうして嬉しいのかわからなくて。
尋ねてみたら。


「お節介じゃないかなって。ずっと思ってた」
「そんなことないです!」


「よかった」


何の前触れもなく、私の頬に触れるから。
ビクッと体が過剰に反応してしまう。


「君に必要とされてるって判っただけでも大きな収穫だよね」

「え?」


そう呟いて私に向ける笑みに
何故か違和感を覚えた。


「さぁ、行こうか」


スッと頬から手を離した先輩は再び歩みを進める。


その横顔を見つめながら。
違和感の正体を考えたけれど。




その答えを見つけることが出来なかった。





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あきゅろす。
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