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アイリス


「……ふぅ」


寝不足の所為か、体がだるいな……


こんなことなら昨日、録り溜めておいたドラマ見ないで早く寝ればよかった


本日何度目か分からないあくびをしながら私は図書室に向かっていた。


「結局、借りてた本も読み終わらなかったし―」


……ん?


違和感を覚え、そっと両手を見る。

それからグーパーグーパーを繰り返しながら私は小さくため息を吐いた。


「……戻ろう」


本を戻しに図書室に向かっていたのに
肝心のものを忘れるなんて…


「このレベルまで来ると重症だよね…」


やれやれと頭に手をやり、もう一度息を吐く。



ぐらり。



「っ!?」



急なめまいに襲われ、体が大きく揺れる。


足に力が入らなくて膝から崩れ落ちる私は今になって事の重大さに気づく。



これって……大ピンチ?



おぼつかない瞳が捉えたのは幾つもの段差の先に待つ――床。



階段、踏み外すなんて……




迫り来る衝撃を前に何故か冷静でいられるのは相当寝ぼけている所為なのだと思う。


訪れる痛みを覚悟して静かに目を瞑る。



「……」



だけど覚悟していた痛みはなく、代わりに柔らかい感触がして私はゆっくりと目を開けた。


「!!!?」


そして開いた目を更に大きくする。



「お前さんは本当にそそっかしいのう」



下敷きになる形で私を抱き止めてくれた人物はそう呟いた後、意地悪く微笑んだ。


「怪我、せんでよかった。傷でもついたらたいへ―」
「ごめんなさい……っ」


目の前の光景に動揺して咄嗟に離れようとした私に、その人物は静かに告げる。


「逃がさんよ」
「……っ!?」


腰に回された腕に力がこもり身動きがとれなくなる。


「人がせっかく心配してやっとるのに、そそくさと退散とは随分ツレんのう?」

「あ、の……」


な、なんで雅治が……


不可解な行動に戸惑いを隠せず、私はそっと声をかけた。


「助けた礼じゃ。少しの間、大人しくしときんしゃい」
「こ、困ります……っ」


確かに助けてもらったことは感謝してる
だけどこの体勢は……っ


床に倒れたまま、私を抱き締める雅治。その力強い腕は解放する気なんて更々ないと語っていた。


「んじゃ、言い方変える」
「…?」


私の耳元にそっと唇を寄らせ、囁く。


「もう少しだけ、このままでおらせてくれんか」
「……っ」


耳朶をくすぐる吐息に、甘えた声に心臓が大きく跳ねた。だけど、すぐに冷静さを取り戻す。



何いちいち動揺してるんだろう
こんなことに意味なんてないのに


お得意のペテンを仕掛けて
私の反応を見て楽しんでるだけ


きっといつもの"気紛れ"に
付き合わされてるだけなんだ


そう考えたら悔しくなって


その手には乗るかって思いを込めて
睨みを利かせようとしたとき―


「っ、…ん!」


いきなり頭を押さえられ、私の顔は雅治の胸へと埋められた。



「…今は顔見んで」



いつもの雅治からは想像できない、少し困ったような儚い印象を受ける声色。


えっ……と、なに、これ?


思いもよらない反応に面食らった私はパニック状態に陥る。


だって、雅治は私をからかって……
反応を見て楽しんでるんでしょう?


違うの?


胸の内で呟いた疑問にもちろん返答はなく。


かといって直接本人に訊いたところで
きっと答えなんて返ってこないんだろうな


それにしても……


つき合ってた時にだって聴いたことなかった儚げな印象を受ける声色に心配が募る。


いきなりどうしちゃったんだろう


真意を知りたくて雅治の顔を窺いたいのに
頭を押さえつけられていてはそれも叶わない。


気にさせるだけさせといて
内心を見せてくれようとはしない


それをこんな形で隠すなんて
本当に狡い人だ


行き場のない手を胸の前で握りしめて、そっと瞳を閉じる。


視界が見えない分、感覚が研ぎ澄まされて。
余計、雅治の温もりを感じてしまう。


腰に回された腕と私の頭に置かれた手。
そして密着する体。


触れ合う部分が熱を帯びてきて体が甘く疼く。


触れたい、もどかしく抱き続けた感情が
もっと触れ合っていたいに変わって行く―



だけど、この感情に溺れちゃいけない



「あの、仁王先輩……そろそろ離し……」
「もう名前で呼んでくれんのじゃな」


また……


元気のない声に胸が痛んだ。
どうしてそんなこと言うの


頭に置かれていた手が離れて。
私はゆっくりと顔をあげた。


視線が、絡まる。



「……名前」


なんで、そんなに哀しそうな瞳をしているの?
なんで、愛しそうに私の名前を呼ぶの?


心臓がうるさいほど脈打って。
目を逸らしたいのに逸らせない。


もどかしそうに私を見つめる雅治。
そっと添えられた手が私の頬に優しく撫でる。



どうしてこんなことをするのか
何を考えているのかわからない



「……何か、あったんですか」



たまらなくなって私はそう投げ掛けた。
途端、私の頬を撫でていた手が止まる。


え?


見間違いかと思えるほど一瞬の出来事。
だけど、それはハッキリと窺えた。



「…すまん」



謝罪の言葉が耳に響いて。
私の頬や腰から雅治の温もりが消えて行く―


とっさだった。


自分でも何をしているのか分からなかった。
気がつけば考えるよりも先に体が動いていたから。


「……名前?」


覚めた熱を求めるように、一瞬だけ見せた"表情"の意味を求めるように私は雅治の手をとった。


「……」


後の事なんて考えてない
かける言葉なんて思い付かない


何も言えず、ただ俯くことしかできなくて
だけど、この手を離したくなくて



なんでだろう



どうしてこんなにも
寂しいなんて感情でいっぱいになるの



少しの沈黙の後、ぽんっと私の頭に手が置かれた。そして優しく撫でてくれる。


「わがまま言ってスマンかったのう」


いつもよりほんのちょっと優しげな声色が頭上から聴こえてきて。とくんと心臓が甘い痛みを帯びた。


「ありがとな」


その言葉を聴いて、私は顔をあげた。


どんな表情をしてたのかはわからない
それを窺うより先に雅治は私に背を向けていたから。


少しずつ遠ざかって行く背中を眺めながら、私は伸ばしかけた手を胸の前できつく握ったんだ。









あとがき
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お久しぶりの更新で大変申し訳ありません!

今回は前回の内容とはガラリと変わったお話になってますね!きっと数日後の出来事です。(他人事)


仁王くんの不可解な言動、一体何なんでしょう…!
そして戸惑いを隠せない主人公。

抑えていた感情が徐々に膨れ上がってきて。
求める心と拒む心、どちらに委ねるべきか。
葛藤してます。

その葛藤が、どういった結果に結び付くのか。
仁王くんの言動の意味とは……?


これからも遅更新ながら頑張っていきますので、
楽しみにして頂けると、とても嬉しいです!

御愛読、ありがとうございました(*^^*)


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