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 来店のとき、支配人ですと挨拶してくれた女性も、どうすることもできず壁際に逃げている。ドロテアは護衛三人に従者が二人なので、そちらの方が単純に人数は有利。


「なぁビバルン、ガブちゃんたちのがつおい?」
「そりゃあ父親が王弟ですから。お嬢様以外嫌そうな顔してるでしょ」

 あらためて見るとドロテアは「ふふんっ」と強気だが、彼女の護衛たちはガブリエラたちに必死な眼差しで「無理!」と、訴えかけているようだ。なんだか気の毒になってくる。


「ドロテア様、お時間の方が……」

 今夜大切な用があるとドロテアは言っていた。ざっくりセックスの予定があるのだろう。


「お前は黙っていなさい」

 従者の優しさをピシャリとはねのける。
 キャットファイトに口出しするつもりはないし、ねちねちした口論を繰り広げるより、拳でドーンの方がさわやかだと思う。

 湯地は見守っていたいのに、ガブリエラがこちらを意識している。だがそっと目配せした相手は自分ではない。


「外に出ましょう」
「いい考えですわ」

 ドロテアの提案にガブリエラが賛成し、護衛と従者を連れて出て行ってしまう。店で暴れるのはよくないと、そこは気にするのか。王族がくるような店なので、神子の宮ほどではないが広い庭だ。こちらは石畳ではなく草(芝生とはちょっと違う)である。

 力の差があるようだし、決着もすぐについてしまうだろう。湯地はこのままぐでぐでしておく。


「ん、ビバルン?」
「おい、ユチ様は僕がお護りすっ―――」

 ぽんっと床を蹴ったビバルは、圧倒されるスピードでひとりの店員に近づき、顔面を片手でつかむとそのまま壁にぶん投げた。


「…………」

 突然すぎて何が起こったのか分からず、キャーと悲鳴が上がるまで、湯地は口を開けておくことしかできなかった。


「短剣ひとつか、刃に毒が塗ってあるな」

 投げられた店の人は気を失っており、ビバルはゴソゴソと武器を見つけ出した。


「おい、紛れているのは分かったが、どうしてそれだと見抜いた」
「一番新人だろ、だから意識して見てた」
「新人なんて話をいつ」
「雰囲気で分かる。なんか仕掛けてきそうだったし、さっさとしずめたんだよ」

 ビバルにはそう見えていたらしいが、湯地たちにはさっぱりだ。


「……お前、何者だ」
「そっちが訊くのか?」

 このタイミングで、ビバルがチェレスに牽制する。そんなのいいから、湯地にホウレンソウしてくれないだろうか。相談の方はもう遅いけれど。


「おいおいおい! どーなっとんだ?」

 湯地はチェレスのスカートをつかみぶんぶんする。このままでは、お店の人がおびえたままだ。


「うーん、ユチ様が狙われていますね。外で戦闘している感じ、あのお嬢様はこちらの味方ですね。この説明の無さ、クラウディオ様が手を打ったのかと。あーガブリエラ様は本気で怒っていたし、警戒するていどにしか言われてなかったのかな? チェレスは本物の侍女だと思ってますけど、俺とは顔見知りですからね。こっちはいいからユチ様を見ておいてねーくらいの目配せだったんでしょう」

 確かにビバルのことを知っていれば、どんなに過保護でも湯地を任せられる。


「ユチ、にせももらとももってる、それやあれやの?」
「もももも」

 そうそうみたいに「もも」を使うビバルを、湯地はもちろんバンバンした。こんなときに、もっと真面目にしなさいと。


「護衛たちが外に出て、今のうちだと襲おうとし、こうなってしまったんです」

 他人事のようだが、こうしたのはビバル本人だ。


「店主、こいつこんななりだが男だ」
「ま、まさか!?」

 湯地もまったく気づかなかった。ビバルはゴソゴソしているときにでも気がついたのだろう。


「ガブリエラ様が予約して、少し後に雇ったんだな?」
「はい、常連の奥様に紹介状をいただきまして、腕も確かでしたし……」
「そりゃだまされるか」

 巻き込まれて気の毒すぎる。


「ユチとビバルン、ここいけっいったのトトしゃんらけど、しっとてなんかな?」
「ユチ様の情報を手に入れるため、ガブリエラ様の周りをちょろちょろしていたんでしょう」
「らいじなむすめ、まもりゅよな」

 だが、ここで雑魚を捕まえても解決にはならないのではないか? ドロテアの役割もピンとこない。



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