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04

 とうとうアキが居座り、ひと月くらい経ってしまった。
 そしてアキは暗い影のある男だと判明した。しかし、ただの情緒不安定かもしれない。


 毎月恒例、金平糖の桃色採取は第一土曜日に行われる。
 午前中は小中学校全校生徒で、島を手分けし廃品回収をするボランティア活動があった。くたくただけど、ジョージのためなのでクリスは金平糖を買って帰宅したのだ。

 居間でくつろいでいたアキに、すり鉢を渡して桃色以外の金平糖を潰させる。アキはもんくをいわず、大人しくクリスの命令に従った。
 子供が素直に成長して、クリスママ嬉しい! とジョージにだけ後で話そう。



――なぁ、なんで譲治先生って桃色しか食べないんだ?」
「だれにでも好き嫌いはあるよ」
「それは味じゃん、何色でも金平糖は砂糖のかたまりだぜ」
「アキだって、ピーマン嫌いなのにパプリカは平気だろ?」
「あれは味が違う!」

 ピーマンの肉詰めを目の前にしたとき、アキの強張った顔の面白さといったらなかった。ふみちゃん先生の飯より、クリスの方がうまいとアキはこっちでよく食べる。


「ジョージがアメリカで医者やってたとき、かんじゃに日本人の女の子がいて、桃色の金平糖をもらったんだって。その子のむずかしいオペに成功したから、がんかけで食べるの止めないんだよ。クリスが知ってるの内緒ね、これジョージママがこっそり教えてくれたんだから」
「アメリカって、譲治先生いま何歳?」
「29さい。飛び級? とかしたりしてるって。医学の場合は〜って、細かい説明されたけどクリスさっぱり分かんなかった」
「たぶん俺が聞いても分かんねぇ」


 ひと月前にレモンの蜂蜜金平糖づけを、大量に作って食べたので次は新しいものに挑戦する。
 しっとりとしたラム酒のケーキがジョージは好きなので、それに金平糖をアレンジで加えてみよう。アメリカのケーキはカラフルだと、ジョージが話してくれたことがあった。似たような感じになるかも。かなりわくわくだ。
 金平糖として食べるのは桃色だけで、他のものに変身すると、ジョージはちゃんと食べてくれる。


「クリスが大人になってアメリカ行けば、男同士でも結婚できるじゃん?」
「考えたことあるけどさ、ジョージがクリスといる時間がへるから嫌だって。ちあんも悪いから心配って」
「譲治先生って、かなり凄いっぽいよな? 医者として満足かここで。コトー先生的な理由があんのかねぇ」
「誰それ? アキの知り合い?」
「俺の知り合いじゃないけど、医療ミスの責任をとって、島の医者になった天才外科医だ」
「へー。ジョージはミスとかしてないけど、院長の孫娘がジョージにラブでさ、ひともんちゃくあってたいへんだったんだよ」
「わードラマっぽい。譲治先生はもてそうだもんな」
「ほれるなよアキ」
「惚れるか!」

 孫娘は美人で清楚な人だったけれど、ジョージをストーカーしていて気持ちが悪かった。
 クリスとの関係を調べて、おどしてきたりした。そんなことをして、ジョージを手に入れ意味があるか疑問だ。


「どこか遠くに行きたいねーってジョージが言うから、そうだ京都に行こう! ってクリスがのってあげたの。そしたら本当に行くことになっちゃって、ちょうど夏休みだったし、日本中ふらふら〜っと旅してまわったね。おいしいエビが食べたくてこの島に来たんだけどさ、居心地がよくなってここで暮らすことにしたんだ」
「つっこみどころ多すぎ。譲治先生エビ好きすぎ」
「でもジョージが一番好きなのはぁ〜?」
「クリス!」
「正解! ぱちぱちー」

 アキがのりにのってくれたのが嬉しくて、拍手したはいいけれど、はかりにかけていた小麦粉が少し宙を舞ってしまった。粉を吸い込んで、むせてしまいそう。


 焼きあがったラム酒のケーキは、晩御飯の後に新垣ふうふも呼んできてみんなで食べた。毒々しい見た目だと評価されたが、味は問題なくおいしいので、ふみちゃん先生が花丸をくれた。
 しっとりとしたケーキに、じょりじょりとした金平糖の食感が加わることによって、なんとなくいい感じな気がするのだ。




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