03
だいたい20日くらい過ぎたけど、アキはまだまだ帰らない。ふみちゃん先生とは、クリスが聞いたまんまを話してあげて和解した。
二人が仲良くなったのはいいらしいけど、トオルっちはちょっと複雑そうな顔をしている。
「とったりしないのに、トオルが嫉妬してるんだ。譲治先生はいいのかね? 俺がクリスと親しくなって」
はてさて、砂浜で棒倒しをして遊んでいるだけで、ジョージが嫉妬をするだろうか。
ニヤニヤわざといやらしい感じで笑うアキは、人をおもちゃにして楽しんでいるように見える。アキの性格があまりよろしくないのは、もうとっくに気がついている。
「ジョージはアキのこと、子供ができたみたいだねって。だからクリスママって呼んでもいいよ」
「違うだろ! おかしいって、普通赤ちゃん預かったりしたときに、そういうイベントが発生するんだよ」
「知らなーい。でもアキはガキっぽいからいいじゃん」
「はぁ!?」
全然倒れそうな段階までいってなかった棒を、アキは怒って砂山を崩して倒してしまった。ほらねガキっぽいとは、クリスの心の中だけでとどめた。よけいに腹立たせてしまうから。
「―――俺はガキっぽくないし普通だ。お前がおかしいんだよ! 譲治先生やトオルたちも頭がいっちまってる!」
この島のせいだと、アキは叫んだ。
前からよくイライラしてるなーと見ていて思った。タバコを吸う量もどんどん増えていっている。ついに爆発してしまった。
「クリスはおかしくていいや、なんか楽だし。でもジョージはクリスを好きなままでいていいなんて、嬉しいけど悲しいって。ジョージはクリスから、いっぱいのものをうばってるらしいよ。プラマイゼロになるように、クリスもちゃんとうばってあげないとね。ジョージはほんとせわがやけるよ」
嬉しいのに悲しいとか、ジョージは器用な男だ。メスさばきと同じだ。
「……ずるいことしたんだろ。だって、思いだけでクリスを手に入れたりできない。クリスの家族の感情を無視してるじゃん」
「そりゃあジョージはクリスが好きなんだから、クリスの気持ちが一番だよ」
「本当にいいのかよそんなんで!」
「うーん、というかさぁ? どーしてクリスや島のことで、アキがぐるぐるなるわけ?」
「だって、俺もおかしくなりそうだ」
「いやなの?」
「…………」
無言になったアキは、もくもくと自分が崩した砂山を作り直す。初めからゲームをやり直すってことだろうか。
デリケートであつかい注意と、トオルっちはアキとはどういう人か教えてくれた。追加情報をたった今クリスは手に入れた。アキってとっても泣き虫。
ぼたぼたと砂山に雨がふる。
「砂まみれだから、目こすっちゃダメ」
「……おう」
嗚咽プラス鼻をすするアキと、棒倒しを再スタートした。
山のカタチがかなりいびつで、棒は既に傾いてしまっている。視界の悪いアキは不利で、クリスは簡単に勝てた。
その日の夜はなかなか寝つけなくて、クリスはジョージを心配させてしまった。
こんなふうにこわくなったのは初めてで、でもこわいってなんだろうって考える。眠れないのはこわいからじゃない、考えてるせいだ。
だってこわいのは平気だ。クリスの側には、ジョージがいるのだから。
暖房はギリギリいらないけれど、肌寒い日もある中途半端な季節。上着をちゃんと着て、二人で夜のお散歩に出かける。もちろん寝つけないクリスのために。
星がきれい、金平糖みたい。でも桃色の星は浮かばない。それなのにジョージは、空を見上げれば甘そうだと呟く。
どうしてだろう? 今この瞬間、とてもジョージを愛おしく感じた。クリスがついていてあげないと、本当に駄目だと思った。
(アキはひとりぼっちでこわいのかな……)
転んでお風呂に入りなおしたくないし、砂浜にはおりない。カレー煎餅みたいなデカイ月が、暗い海の上をぷかぷか泳いでいる。
ちなみに海開きをしてもジョージは泳がない、かなづちだから。クリスも泳がない、何かあってもジョージが助けに来られないから。
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