日付変更線上のリア充
別に期待してた訳じゃないけど、とテレビの明るい音が響く部屋でクッションを抱えなおした。
ホワイトデー、だったのだ。もうあと数十分で今日は終わるから、過去形でもいいだろう。
バレンタインに、自分でも不思議なくらいの勇気を出してチョコレートを渡したのだ。一瞬驚いた顔をして、すぐに微笑んで受け取ってくれた。
しあわせだった。とても。そう、しあわせだから別に、おかえしが無かったとか、そんな、うん、気にしなくても僕の気持ちは受け取ってもらえたしその返事が無いくらい。
………無いくらい。
クッションに顔を埋める。テレビの音がよそよそしい。
けれど、やっぱり―― と、しょんぼりしてしまった時に、チャイムが鳴った。
「えっ」
思わずびくりとしてしまう。
こんな夜中にチャイムが鳴るなんて。
ついこの前ネットで読んだ怖い話がさっと思い出される。
動けずにいると、もう一度。
「…ええぇ……」
怖い話が次々と脳内で繰り広げられているが玄関へ向かって、ドアスコープを覗いた。
次の瞬間、僕は慌てて鍵を外し、ドアを開く。
「おお」
その勢いに一歩下がって仰け反った彼が、僕を見て、ふ、と笑った。
「お届け物です」
笑いながらいつもの調子で言った彼を、僕は信じられない気持ちで見つめた。なにかに、騙されてるんじゃないだろうか。
「お、おとどけものですか…?」
「うん。ごめんな、こんな時間に」
ひとまず中へ、と彼を招き入れると僕の前にほどほどの大きさの紙袋が差し出された。
「これ…」
「バレンタインの、おかえし」
「えっ」
「え? だからバレンタインの…」
「えっ、や、そうじゃなくてですね、えと、」
「おかえしって言うか、」
「はい」
「…いや、おかえしか」
「はい」
「おかえし、兼…」
「…兼?」
色々な、本当に色々な感情が体中に渦巻いて泣きそうな僕に彼は、ふふ、と笑って
「これからも好きでいてね、っていう、賄賂」
そんな事を言った。
「っ、賄賂なんかなくても好きです、ずっと好きです!」
「そっか」
「そうです!」
また、そっと笑った彼は、僕にぽすりと寄りかかって
「もうすぐ終電無くなるから、泊めてね」
と言った。
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