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いったい何度繰り返したら
 

 はあ…と彼が溜息を吐いたので、洗濯物を干しながら、どうしたんですか、と尋ねた。
 布団の中は全裸のままで、いいかげんそろそろ服を着てくれないかなーと思っていた矢先の事だ。
「あのさ」
 ごろん、と寝返りを打つと痩せた胸元が見える。なんとなく視線をそらしながら
「はい」
 と答えた。
 一瞬、また溜息を吐きそうな空気を漂わせて、彼が言う。
「自分を好きになってくれる相手だけを好きになれたらいいよな」
「……はあ」
 何かの歌でそんなのを聞いたことがあるような気がする。
 気のない返事を受けて、彼はほんの少し皮肉げに微笑んだ。
「な」
 それから急に、ばさっと布団をはねのけて、ぎりぎりきわどいタイミングでタオルケットを腰にまとわり付かせて、彼はベッドを降りた。
 唐突な事態に動けずにいた僕の前に立って、彼は僕の耳のすぐ上の髪の中に右手の指を突っ込み、そのまま首の後ろへ手を動かす。うっすら冷たい指先。やっぱり、早めに服を着てもらうんだった。
 左手も同じように僕の首の後へ回ると、腰にまとわり付かせていたタオルケットがばさりと床に落ちた。
「あっ、うわ、」
 慌てたこちらの様子など全く気にしていない様子で、彼は両手にぐっと力を込めて俺を引き寄せる。急いで目をつぶると、噛み付くみたいに(実際、半分くらい噛み付かれたように思う)唇が触れ合って、やり場のない手がびくっと震えたのが自分でもわかった。
 お互いにやわやわと噛み付いたり、舐めたりしていると、もときた道を辿るように彼の手がまた髪を撫でていく。今度は両手が揃って、顎をなぞり、首を降りて、胸から胴へ──
 ふと薄目を開けると、彼も同じように目を開けていた。
 波が引くように唇が離れて、彼は僕の腰に両腕を回したまま、また皮肉げに笑う。
「な」
 皮肉ではなくて自嘲だったと、気付いたのは翌日の事だった。






20130503






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あきゅろす。
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