帰り道
「…小腹減った」
と、唐突にコンビニの前で立ち止まった彼が言った。へ、と思って数歩進んでしまってから振り向いたときには、彼はもうレジの前で財布を取り出している。
こ、行動力ぅ…と感心していると、彼が戻ってきて
「はい」
と、よく見る薄い紙に包まれた肉まんを僕に差し出した。
「え?」
「いらない? いらないなら俺が食うけど」
「あっ、いただきます!」
受け取ったあとで手袋を取ろうとして上手く手を引き抜けずに、指先をくわえて手袋を――
「な、んですか?」
手袋をとって、あたたかい肉まんに、もふ、と噛みついた僕を彼がじっと見ていた。
「いや、今のいいなと思って」
「ん? 今の?」
「手袋をくわえて、ぐいってやつ」
からかうような、半ば本気なような彼の目が、少々怖い。取って食われそう、まではいかないけれど、味見くらいはされてしまいそうだ。
駅まであと五分。
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