これだから冬は
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい。寒かったろ。ほっぺた真っ赤にして」
「寒かったですー、明日…今夜?雪降るみたいですね。あー…あったかいです、手」
寒風に冷たく赤くなった頬を両手で挟んでやると、うっとりと笑って目を閉じる。どうにも堪えきれなくなって、ほんの一瞬、同じように冷たい鼻先にキスをすると、慌てて目を開いた。
「ん、え、な、何かしました?」
「してないよ?」
「…そうですか?あれ?」
「コート、そこにかけていいから。俺も今帰ってきたところでさ。米炊くのセットしただけ」
「あ、手伝います。晩ご飯何ですか?」
「ハンバーグ」
「大好きですハンバーグ」
「そっか、良かった。じゃあ手伝って」
はい、とよい子の返事をして、彼は俺の隣に立って袖を捲った。
普段は佇まいと性格がそうさせるのか、妙に華奢な印象だけれど、肘まで露わになった腕の骨が案外太かったり、して、慌てて意識を手の中の玉ねぎに向ける。
「みじん切りにして」
「…みじん切り」
「……俺がするから、お前は挽き肉とパン粉と卵担当な」
「はーい」
みじん切りの玉ねぎをフライパンで炒める俺の横で、合い挽き肉とパン粉と卵をぐにぐにこねながら、
「なんか楽しいですね、これ」
楽しそうに彼が言う。良かったな、と返しながら、俺はすぐ後ろにある冷蔵庫から白ワインを取り出した。
手近なところ――肉をこねる彼の前に、ちょっと失礼、と手を伸ばして、洗ったあとにまだ片付けていなかったグラスを取る。
「あー。ずるい」
ワインを注いでいると彼が言った。
がたがたとフライパンをおざなりに揺すり、俺はすぐ隣でこっちを見ている彼を横目で見ながらグラスを傾ける。
冷たい液体が喉を通りながらじわりと熱を染み渡らせてゆくのがわかる。
「飲む?」
「飲みます!……あ、でも、手が」
挽き肉をこねていた彼の手は、溶けきらない脂や肉やらで、何か持てる状態ではない。
「いいよ。ほら、」
俺は彼の口元へグラスを持っていく。ほんの少し躊躇って、それでもグラスをゆっくり傾けると、一口、飲み込む。
そっとグラスを戻すと、彼は濡れた唇の端をちらりと舌先で舐め――たので、ついでに俺が同じ場所をひと舐めする。
「っ、…!」
せっかくこねた肉のボウルを床に落としそうなほど動揺し、彼は真っ赤な顔をして俺を見た。
俺はフライパンをあぶる火を止め、
「玉ねぎ冷やさないといけないからさ。その間、何しようか」
肘まで露わになった彼の腕を撫でるように指を這わせて、微笑んだ。
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