距離
からん、とビールの缶が倒れて転がった。
「あ」
空になっているのはわかっていたが、思わず手が出る。
少し横に倒れるようにして缶を立て直し、力が入りづらくなっている身体をゆらりと起こした。ごつ、と彼の頭と僕の顎が接触する。
「いて」
「あ、ごめん。大丈夫?」
「はい、大丈夫…ですけど…」
缶を捕まえた時に女の子のような横座りになっていた僕の上に、のしかかるようにして彼がいた。
あ、まずい、と咄嗟に思う。
逃げるには後ずさればいいのだけれど、きっと後ずさった分だけ彼は近付いてくるだろう。最終的には壁際に追い詰められてしまう。
動けなくなった僕の首のあたりに彼は酔って熱くなった頬を擦り寄せる。
それからいつものように低く笑うと、急に僕の鎖骨にかぷりと噛み付いた。
ひえっ、と声を上げた僕に、彼はくすくす笑う。柔らかい唇で軽く吸い付いて、ちろりと舐める。また、歯を立てる。
頬だか吐息だか――唇か舌かもしれない、わからないがひどく熱い感触。
彼は僕の服の襟に指を引っ掛けて、ぐいと広げた胸元に噛みつき、吸い付き、舌を這わせた。
思わず、目の前にある彼の額にキスをし返す。
はっと顔を上げた彼と、目が合った。
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