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やさしくするから
 

 寝てていい、と彼が言ったので僕はベッドに仰向けに寝転がった。電気の消えた暗い部屋だけれど、街の明かりがなんとなくぼんやりと輪郭を浮き上がらせていた。
 この段になっても、わー緊張するなーなんて暢気に考えていた僕に、彼は近づいて来て腕組みを解くと、ふう、と溜息を吐く。ベッドの端に腰を下ろして、顔の横に投げ出していた僕の右手に、自分の左手を絡ませた。
 ベッドが少し軋んだ。人間二人分の体重を乗せるなんて、そう無かった事だし。
 彼は握りあった手に少しだけ力を込めた。
 それから、そのまま、僕にキスした。
(くちびるが、やわらかい)
 なんて思う暇もなく、何度も何度もキスが続く。ふ、と笑った気配がして下唇をやんわりと食まれた。
 一瞬、びくりと右手に力が入る。彼は笑った気配のまま、今度は二人の間に挟まれていた僕の左腕を掴ん
だ。
 握り合った手はそのまま、彼に掴まれた僕の左腕はなされるがままに彼の腰に回る。
「そのまま、」
「えっ」
「…そのまま触って。背中、とか」
  なにもしないで寝てて良かったんじゃ、とも言えず、僕はそろりと、どうにも薄い、けれど凛とした背筋
をそうっと撫でた。





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あきゅろす。
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