秋のこと
「なんでキスしてくれないんだ」
そう、本当に唐突に彼はそう言って、本当に唐突に彼は泣き出した。
泣くって言ってもそんなに派手にじゃなく、左目の縁から涙をぽろっと零しただけだったけど。僕はすっかり慌てて、何も言えずにその涙が彼の顎のあたりで肌に馴染んで消えてしまうのをなんだか勿体無い気持ちで見ていた。
彼は縁が赤くなった目で僕を見て、それきり黙る。
なんて雄弁な目だろう。怖くなるくらいだ。
顔を近付けると目蓋が降りて、怖くなくなった僕と彼の唇がそっと触れ合う。
「……言わなくてもキスくらいしなさい」
お説教みたいに彼が言うので、僕は神妙に
「はい」
と答えた。
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