ひるどき
「ひとくちください」
俺の目の前に座った彼は何のためらいもなくそう言い、ぱか、と口を開けた。
スプーンとレンゲの中間のような匙で昼食を口に運んでいた俺は、そ言葉に手を止める。
何を言っているのか、は、わかった。この、半分以上が胃に消えた丼飯を一口欲しいらしい。
ただ、何故口を開けて雛のように待つのか。
彼の前には、出来上がったばかりのおろしツナパスタがあるにも関わらず、だ。
「ひとくち?」
聞き返すと、口を開けたままうんうんと頷く。
無言で丼ごと差し出してみると、ええー? と非難じみた声を上げた。
「なに?」
「あー、ん」
食べさせて欲しいらしい。なるほど。
なんでもないような微笑を向けて、匙で一口分をすくうと
「ほら、あーん」
そう、相手の目を真っ直ぐ見ながら差し出す。
まさか「あーん」をやってくれるとは思っていなかったらしい彼は、俺の行動に一瞬ひるみ、それから嬉しそうに、差し出された一口分の昼食を食べ――
「…えええー…」
られずに悲嘆と不満の声を上げた。
「自分の分食べたら?」
もぐもぐと一口分を咀嚼し終えて笑いながら言ってやると
「いじわる……」
ぷう。
と、拗ねる擬音を口にして、彼はおろしとツナが絡まるパスタにフォークを突き刺した。
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