「この声が届きますか」
マイクスタンドにしなだれかかるようにして微笑むと、優男な外見には少々そぐわない掠れた低い歌声が、ウッドベースとピアノの合間を静かに流れた。
素っ気ないライトを浴びながら見る客席に、想い人の姿はない。
褪せた黒茶の髪よりは黒い、長い睫毛でその視界を遮って、くちづけるようにマイクに囁く。
─今夜はどこにいるの。電話にも出ないで。
それはただの歌詞なのに、まるで自分の心のようだ。
年上の、自由なひと。
冷たいマイクの支柱を両手で包み込んでなぞりながら、この腕の中にいるのが彼だったら、と夢想する。
─わたしの声が聞こえたら、すぐに、こたえて。
ついったの診断RTされたら書くお題より。
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