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エメ博士とアルベルト
 

「さあ、コンラッドくんに挨拶しなさい」
 エメ博士が自分の後ろに隠れていた子供の背中にそっと手を当て、彼を知る者なら誰もが驚くだろう優しい手つきで前に押し出した。
 彼が幼い生き物にこれほど寛容で温もりのある態度をとるなど、想像した事もない。
「はじめまして、コンラッドさん。ぼくはアルベルトです」
 まだ幼学舎へ入る前くらいの年齢だろうに、その子供はしっかりした口調でそう言った。
「はじめまして、アルベルト」
 つい、握手の手を差し出す。美少年ではなかったが、アルベルトは不思議な――人目を引く、知性に溢れた顔立ちをしていた。
 小さな、まだふんわりとやわらかい手のひらが私の手を行儀良く握り返す。
「博士にお孫さんがいたとは思いませんでした」
 私の言葉にエメ博士はいつもの、世間を皮肉るような笑みを浮かべた。
「孫?」
「あれっ、違うんですか?」
「アルベルトを良く見なさい、コンラッドくん。特にその瞳の色をね」
 言われて、私は少年の顔をもう一度、よく見る。
 髪は木の皮のような黒っぽい焦茶。頬は桃のようにふんわりとしてなめらかだ。
 そうして瞳の色は、
「――…やっぱり、お孫さん、でしょう? 博士」
 エメ博士と同じ、金色――淡い琥珀色と苔色の緑がせめぎ合う、宝石のような色をしている。
 アルベルトの肩を、エメ博士は痩せた手でそっとくるみこんだ。
「孫、孫か。まあ、それでもいいさ、コンラッドくん」
「…意地悪だなあ。お孫さんじゃないにしても、親戚のお子さんとかでしょう?」
 エメ博士は私の言った言葉のどこかに、にい、と笑む。
「この子は、わたしだ、コンラッドくん」
 少年のみずみずしいばら色の頬を、博士の枯れ枝のような指先がなぞった。私は聞き違いかと、聞き返す。
「なんですって? …エメ博士、」
「この子はわたしだ。クローンだよ、コンラッドくん」






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あきゅろす。
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