いけないことかい
新聞も、雑誌も、彼は俺が望めば何の躊躇も無く買ってきてくれる。そうしてそこには、行方知れずになった若手俳優の記事が載っている。
どこから調べるのか、過去から現在に至る交友関係まで仔細に載っていて、読んでいると古い友人達が懐かしくなったりもする。
「そろそろいいじゃん。出してよ。外に」
いつもの台詞。
「駄目だ」
いつもの台詞。
片膝を立ててそこに頭を乗せる。薄めた視界に、ネクタイを解いただけの男の姿。
真面目で、従順で、そのくせ狂気をはらんだ男。
俺を監禁している男。
テレビが嫌いで、ラジオが好きで、本は読むけど日本人が買いた小説は嫌いで、漫画は読まない。
しっかりした骨格と、斬りつけるみたいな目をした男。
俺とは正反対の男。
「――なあ、シュークリーム買ってきてくれた?」
「冷蔵庫」
「やった」
オーディオからFMラジオ。
週刊誌はぼくらのことを知らない。
おねがいだよ、僕だけのひとになってよ。
(岡村靖幸「イケナイコトカイ」)
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