落日
弱りだした蛍光灯の光でさえ眩しくて目を薄めた。当然、真昼の日の光を葉陰から仰ぎ見る事すら出来なくなって久しい。
闇ばかりを見つめすぎた瞳にはもう光は宿らず、暗く沈んだ目の中には夜に似た色だけが住んでいた。
「けど別に夜目がきくようになった訳でもないからな」
「不便なだけだか。医者は?」
「一回だけ行った。眼精疲労で点眼出たけどな。良くなる様子ゼロだから馬鹿馬鹿しくって」
「そうか」
およそ色気のない調子で言葉を交わしながら、二人の手は慣れた様子で互いの服を剥ぎ取った。
「視力も落ちる一方だから」
いつか見えなくなるかもな、と笑う唇が頬に押し当てられ、すぐに離れる。
「見えなくなったら、どうする?」
金をかけて薄いレンズを使っても尚厚みのある眼鏡を外した手が、閉じたままの目蓋を撫でた。
目を開け、ごく普通の部屋の明かりに、眩しい、とまた目を閉じる。
「どうにも。…きっと、そうなるべきものなんだろうからな」
指先が、見るように肌を確かめる。
あかりが消えた。
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