[携帯モード] [URL送信]
夢にも
 

 この両手に枷をつけられて、そしてそれを引きちぎる夢を見る。


「あ、課長、武石さんからメール送ったと連絡ありました」
 喫煙所から戻ってきた法木のデスクに、今まさに付箋を置こうとしていた野崎が言った。
「ああ、ありがとう」
 メモと、小さな粒の飴を直接手渡した野崎は会釈をして自席へ戻る。それを、あ、と声をあげて引き留め
「野崎くん、精算申請明日だから、忘れずに」
「はい。今日中に提出します」
 僅かな会話を交わし、かさかさと小さな飴の包みをほどく。
 いやに硬いフィルムに包まれたそれは真っ青で、小指の先ほどの大きさもない。フィルムの文字は見たことのない外国語で書かれていた。
 法木はやや老眼が入りだした眼鏡の奥で目を眇めてみるが、かろうじて「ICE」の文字が読み取れただけだった。
 煙草の味がまだ残る舌の上にそれを乗せる。すう、と息を吸うとひんやりしたハッカの味が喉の奥、肺まで染み込んだ。
 しばらくして精算申請に承認印を貰いにきた野崎に、法木はまだ冷えている舌を動かす。
「なんだい、さっきの飴。いやにすうすうするなぁ」
「イタリアのミントキャンディだそうです。庶務の水城さんがクールビスの一環になるかなって配ってたんです」
「はは、なんでもクールビスだなぁ」
「口の粘膜冷やすと体温も下がるからいいそうですよ」
「へぇ、そう」




[*][#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!