壊してしまった。
胸のちょうど真ん中に、鍵穴のような細長い孔があるので、それは何かと俺は訊いた。
秘密、と彼は薄く、いたずらっぽくただ笑う。
はぐらかされて、それの話はそれきりになった。
ある夜――空が僅かに白む夏の早朝に目が覚めて、水を一杯、俺は飲んだ。
いつ来たのか、合鍵を持っている彼がソファベッドで仰向けに寝息をたてている。いつもの事だった。
魔が差した、としか言いようのないその行動を、俺は今でも後悔している。
気付いた時、彼の「鍵穴」には、薄く鋭い果物ナイフがすんなりと差し込まれていて、彼は頭を少し傾けたまま動きを止めていた。
「――…ああ、」
ああ。
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