やみのみち
暗がりで獣が息を潜めている。
立ち止まり、二つに分かれた道の片方を上杉景勝はじっと見つめた。
どちらも木立の奥は闇の中。敵方の隊が待ち構えていたとしても、その闇がステータスをかき消しているだろう。
「近い三淵を進みましょうか」
後方から声を掛けた部下を振り返り、
「三淵の道は左です」
その続きを聞くと、景勝はまた、じっと暗い木立を黙ったまま見つめた。ややあって、すう、と腕を上げると
「右へ」
と告げる。
「何故です。今は一刻も早く攻め入るべきで――」
「三淵には獣がいるだろう」
景勝が静かな声でそう言った。
「獣…?」
「三淵には獣がいる。右だ。僕は、三度は言わない」
凛とした低い声に、異を唱えていた部下がびくりと震える。
景勝は睨むように見ていた左の木立奥の闇から、ふと興味を失ったように顔を背けた。
新発田攻めの。
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