今川義元
「義元は紅茶にするのです」
ミルクティーがよいのです、ときっぱり言い切った声に、カミサマはけたけた笑って
《空気読まねーなあー、いいよ、義元》
すうっと義元の足元からティーセットが載ったミニテーブルが現れる。
「――…随分余裕ね、今川義元」
慣れた様子で紅茶を注ぐ義元に、秀吉が言った。濡れた藍色の瞳が秀吉を見、華奢な白い手がゆったりと肩に散らばるプラチナブロンドを揺らす。
「史実がどうか知らないのです。義元は勝つので、昔話は関係ないのです」
眉ひとつ動かさずに言い切った義元に苛ついた顔をする秀吉が、かつ、と進み出た信長にはっと腰の太刀を握りしめた。
「教えてやろうか、義元」
ミルクティーのカップを両手で持ち、ん、と義元は信長を見る。
ざあ…とどこかから、強い風の音がして、制服の裾をはためかせた。
「その昔話で、お前は私に大敗するんだ」
義元の淡い桃色をした唇が、ややあって、わずかに歪む。
「……なら、その昔話を書き換えるのです。義元は、織田信長には殺されないのです」
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