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アレクトの娘たち
 

 光る長い爪でカチカチと携帯電話をいじっていた手を止めると、
「ねぇ、最近学校来てないよねえ」
 鼻にかかった声でとろりと喋る。
「ヒキコモってんの?」
「んー」
 返事はどうにも曖昧だ。
 しかし特にそれを気にする様子もなく、
「さいとーさん知ってる?」
 また、気怠い声で続ける。
「どこのさいとーさん?」
「えとねぇ、C組…」
「知ってる」
「さいとーさん、死んじゃったんだって」
 少しの間があり、
「……ふーん。何で死んじゃったの」
 潜めた囁き。
 夕方のファストフード店には誰の耳があるかわからない。
「なんか、新しいゲーム、知ってる? それで死んじゃったんだって」
「へえ」
「モニターっていうの? それだったんだって。それで、ゲームの中から戻って来なかった? んだって」
 角の席から明るい笑い声がして、揃ってちらりと視線をやる。
「でも、」
 ぱくん、と二つ折りの携帯電話を閉じて、今度は指先にふわふわ長い髪を絡ませて枝毛を探し出す。
「…でも?」
「そのゲーム、勝つと願いが全部かなうんだって」
「全部」
「そう、ぜんぶ、なんでも」
「…へえ……」
「いいよねぇ」
 とろり。
 明るい店の中、そこにだけ闇が滴る。
「そう、…だね……」





 生死を賭けろよ。
 のぞみのために。



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