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回顧
 

 不思議な夜だった事を今にして思い出す。


「いつ休んでいるのです」
 本当は、最後に休んだのはいつか、と問いたかったが、柴田勝家はそう、少し詰るような声で訊いた。
 勝家が統括を任されている北陸方面は上杉との小競り合いが続いていたが、僅かに出来た隙を見計らうように信長が一度顔を出すようにと言ってきたのだ。勝家は、味方どうしだというのに何かとぶつかる成政と利家に大人しくしているようにと言い含めて、信長に会いにきた。
 時間はもう日付が変わる手前だったが、信長は昼間のように平然と起きて、統治システムをなにやら緻密に数値設定しているところだった。
 拠点の距離がお互いに離れるとステータスの詳細は見られなくなるが、ログインとログアウトの記録は見ることができる。信長はもう随分長いことログアウトしていなかった。
「私の事はいいだろう。それより勝家」
 近付くと、信長は勝家の手に一枚のカードを押し付ける。
「これは、……信長様」
 カードを見るなり、勝家は驚いて目を丸くした。
「お市はお前にやる。持っていろ」
 展開していたウィンドウをいくつか閉じて、信長は勝家にそう笑いかける。
 渡されたカードは、戦歴や統治のログを残し、また設定しておけば自分が不在でも自領の統制を行うなど色々なシステムが詰まった『武芸システム』と呼ばれているカードで、信長所有の「お市」は秀吉が喉から手が出るほど欲しがっていたものだった。
「浅井から取り戻したはいいが、私はお濃と吉乃で充分だからな。とは言え、秀吉にやるは勿体無いだろう?」
「は……」
 何と答えれば良いのか、勝家はただまじまじと、手の中のカードを見た。
「利家と成政は相変わらずか」
 信長の問いに、勝家ははっと顔を上げる。一瞬言いよどんで
「ええ、相変わらずです」
 正直に答えると、信長は、珍しく、声を立てて笑った。
「そうか。苦労をかけるな、勝家」
 それからふと真顔になると
「上杉にもう力は無い。火のように攻めよ」
 低い声で、そう言った。
 優しく笑んだかと思えば、次の瞬間には冷酷な支配者の顔をする。
 勝家は背筋を伸ばし、それから深々と頭を下げた。




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