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逢坂にて
 

 それは蔑みの目だった。




「お前が石田三成か」
 初対面の相手にかけるような声の調子では無い。三成は面食らって、答える事も出来ずにいた。
 短気と言われる三成よりも更に短気らしく、凛々しい眉をぎっと逆立て
「羽柴の兵はろくに受け答えもできないのか」
 ざらつくような音を唇から零す。三成の頬にかっと朱が差した。
「…石田三成にございます」
「なんだ、口がきけたか」
「――佐々殿」
 そう、相手はかつて織田信長の親衛隊・母衣衆の黒母衣筆頭であり、三成の主君である秀吉を苛烈なまでに嫌い、敵対した佐々成政、その人だった。
 三成はやっと平常心を取り戻し、
「秀吉様のもとへ、ご案内いたします」
 真っ直ぐ、成政の目を見る。
 そうしてから、三成は自らの行動をすぐに悔いた。
 秀吉と懇意にしている前田利家から、彼女の話は聞いていた。
「佐々成政は狂っている。信長様が討たれ、秀吉が覇権を握ったその日から、もう、ずっと」
 利家はそう言っていた。三成はその確固とした狂気を目の当たりにして、ぞっ、と身を震わせる。
 三成を見る成政の目には、蔑みだけがあった。
 憎しみでも、嫌悪でも、敵愾心でもない。「羽柴」に属する者に対する、果ての無い軽蔑――
 痛々しいほど真っ直ぐな背が、秀吉が設けた接見室へ消えた時、三成は思わずその場に座り込んだ。
 



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あきゅろす。
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