この修羅の世界で
わたしはわたしがきらいだ。
つまりそれは、わたしを形成してきた環境も、父母もその父母も、そのまたさらに父母も――きらいだという事だ。
わたしはこうして生きていることをきらっている。
疲労しやすい肉体を、思うままにならない心を、定められている歴史を、運命を、なにもかもをきらっている。
それでも息をしている。
それでも腹が減る。
それすらきらいだ。
わたしは、わたしを成す全てを憎み、疎む。
きらいだ。
「また、変な格好で寝るとスジを痛めますよ」
乾いた水の匂いがして、温かい手がわたしの頭の下へ枕代わりのクッションを突っ込む。
「……景綱」
「はい、景綱ですよ、政宗さま」
「こじゅうろう」
「政宗さま、ほら、ちゃんと寝るのなら寝台へ運んでしまいますよ」
「ねむくない、こじゅうろう」
「はいはい」
優しく笑っている景綱――小十郎は、わたしを抱き上げてベッドへ運んでしまう。
「きらいだ…」
「そんなことを言われても、私は、好きですからね」
きらいだ。
きらいだ。
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