novel
thinking in the rain(クレシャ)
しとしとと雨が降っている。
がたり、とクレアはおもむろに椅子から立ち上がった。
「どうしたんですか、クレアさん?」
「…ちょっと、出てくる」
彼は傘を持つと、そのまま静かにドアを出ていった。
「…変ですね」
いつもなら、俺はフェリックス・ウォーケンだ、だとか反論があるのだが。
ラックはひとり首を傾げた。
***
絹糸のような冬の雨は、凍みいるように冷たい。
クレアは上着の胸元をかき合わせた。
ときどき立ち止まりながらも、歩き続ける。
何か気配を探るような歩みは、やがて小さな花屋の前で止まった。
冷えた空気のなかにひっそりと立つ人影が、驚いたように黄金の瞳を見開いた。
(…クレア……!)
「なんだ、やっぱり此処にいたのか、シャーネ」
そっと、濡れた黒髪をかきあげて、その人影――シャーネの額にキスをする。
(…こんなところで、どうしたの?)
「いや、なんとなくシャーネがこの辺りにいるんじゃないかと思ったんだ。…それに―――」
スッと顔を近付けて、その顔を覗き込む。
「シャーネが、ひとりで寂しがって泣いてるんじゃないかと思ってさ」
途端に、シャーネの頬が赤く染まった。
(なッ、泣いてない…ッ!!)
「なんだ、図星なのか?」
(泣いてなんか…ッ)
すると、クレアは前触れもなく必死なシャーネの言葉を唇で遮る。
触れるように一度重ねた後、もう一度角度を変えて、今度は深く重ね合わせた。
しばらくしてから解放すると、案の定、シャーネは更に真っ赤な顔をして上目遣いにクレアを睨んでいる。
その可愛すぎる光景に、思わず頬が緩んだ。
「可愛いシャーネが、そう言うんなら、そういうことにしておいてやるよ」
(……ッ!!)
「そのかわり、本当に寂しくなったら俺を呼べよ?」
その言葉に、シャーネはやや俯いて、恥ずかしそうに小さく頷いた。
――やっぱり、彼には私のことはなんでも分かってしまうんだ。
さぁ帰ろう、と差し出された手にそっと手を重ねながら、彼女は想う。
雲間から私の想いが貴方に降り注ぐというのなら、
こんな雨の日も、いいかもしれない。
end.
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