novel clown×clown Night(クレシャ) 夜のニューヨークの街。 その一角にあるジャズホールの円卓を5人の人間が囲んでいた。 「………」 「なんだ、シャーネはポーカーをやったことがないのか。じゃあ、大富豪は?…そうか。……ん?ババ抜きはできるのか。よし、それにしよう。いいよな、兄弟?」 「…構いませんよ」 「ガッハッハ!!ババ抜きか!久しぶりだな!」 「………」 …話は、数分前に遡る。 *** 「よう、兄弟。久しぶり」 ジャズホールに入ってきた赤髪の青年は、連れの黒髪の女性と共に真っ直ぐ中央の円卓に近づくと、ガンドールファミリーのボス3兄弟に話し掛けた。 「お久しぶりですね、クレアさん。それから、シャーネさんも」 「クレアじゃない、フェリックス・ウォーケンだ。それと、あんま気軽にシャーネの名を呼ぶな」 「はいはい、フェリックスさん。―――それで、今日はどのようなご用件で?」 「ああ、それなんだが――シャーネに“夜のニューヨーク”ってやつを見せてやろうと思ってさ。こういう場所に行ったことがないって言うから」 隣ではシャーネがこくりと頷いている。 「そうでしたか。よければ、少しゆっくりしていってください」 「ああ、そうだな。シャーネ、何しようか?」 そうして2人で―――端から見れば男の方が一方的に、話しはじめた。 「よくあれで通じるな」 「そりゃあ…愛の力ってやつじゃないの?ベル兄だって、知ってるだろ?」 「ガッハッハ!!そういやこの中で知らないのはお前だけだったな、ラック!!」 「………」 そうこうしているうちに、話はまとまったようだ。 「カードをすることになったから、兄弟も一緒にやろう」 「えっ、我々もですか?」 「シャーネが、皆でやりたいんだそうだ」 こくこくとシャーネが肯定する。 「そういうことなら…」 このような経緯で、今5人は円卓を囲んでいるのだった。 *** 席には、キース、ベルガ、ラック、シャーネ、クレアの順で座った。 クレアが器用にカードをきり、分配する。 そろいの札を捨て場に置き、用意が整った、そのとき。 「シャーネ」 おもむろにクレアがシャーネの名を呼んだ。 「?」 「あの、さ。あんまり、自分の手札を言わないほうがいいぞ?」 「―――ッ!!」 シャーネは慌てて俯き、手札を握り締める。 「なんだあ?」 「なんでもない…始めようぜ。ちなみに、いちばん負けた奴は罰ゲームな!…それじゃ、やっぱ長男だし、キースから」 キースは無言で頷くと、クレアの手札から1枚抜き取った。 順繰りに手札を引いていき、クレアの番になる。 シャーネがクレアが引けるようにと、カードを少し差し出した、そのとき。 クレアの手がシャーネの手を手札ごと包み込んだ。 「…ッ!?」 驚いて手札から顔を上げると、すぐ目の前にはからかうようなクレアの笑顔。 「シャーネ…そんなに、罰ゲームがしたいのか」 慌てて首を横に振ると、クレアは楽しげにくつくつと喉を鳴らすと、いちばん端のカードを引き抜いた。 *** ―――おかしい。 さっきから、クレアの様子がおかしい。 いや、それよりも、自分の手札のほうがおかしい。 順番が回ってくるたびにカードをクレアに差し出すが、いちばん引いてほしいカードはことごとく避けられているのだ。 ここまで避けられると、実はこの男は透視能力も会得しているのではないかと思いたくなる。 (クレア…あなたは、透視もできたのね) 視線で訴えてみるが、にやりと笑ってかわされる。 気付けば残ったのはクレアとシャーネだけ。 クレアがカードを引いて揃えてしまえば、シャーネの負けだ。 ――おねがい、こっちは引かないで…! できるだけ無表情でいようと顔を強張らせていると、ふいに、その頬に温かく大きな手が滑るように触れた。 予想もしていなかったことに目を見開くと、クレアの顔はすでにシャーネの耳元にあって。 「言っただろ。俺にはシャーネのことがなんでも分かるんだ」 甘く囁かれて赤面しているうちにカードはするりて引き抜かれ、シャーネの手元には耳まで裂けた口をつり上げて笑っている道化のカードが残された。 (ず、ずるい…!) 「ずるじゃないさ。愛の力ってやつだな。それより…」 ぐいっと顔を近付け、鼻が触れ合うすれすれでとまる。 「忘れるなよ…罰ゲーム」 シャーネは今度こそ顔を真っ赤に染め上げた。 *** 「………」 「………」 「………」 完全に蚊帳の外となった3兄弟は、 「………はぁ…」 ため息を残して静かに円卓を離れた。 ――まったく…いちゃつくなら、余所でやってくださいよ… end. *** 今回、設定や説明にかなり不安が残るので、なにかお気付きの点がありましたら、『real』コメントまでご一報ください。 あいこ. [*back][next#] [戻る] |