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短編小説
1-3
「・・・名前は安田忍(ヤスダ シノブ)・・・男か女か分からないな」

 玄関の表札を見上げてみて、こんなことなら引っ越ししてすぐに挨拶に行けばよかったと勇は後悔した。

“忍”という名前だけではその性別は判断できないものだった。

 仕事が忙しかったから、相手と時間が合わないからと色々と言い訳することはあるが、挨拶くらいしようと思えばできたのだ。

そうすれば隣人もここまで頻繁にセックスをしなかっただろうし、何回かに1回は彼女ないし彼氏の家で、もしくはそういう場所で致してくれたかもしれない。

自分にも非はあるか、と視線をその所々に錆のあるドアに視線を戻すと、インターフォンがないためそのドアを控えめに叩いた。

「夜分遅くに申し訳ありません、私(わたくし)先日隣に越してきた早乙女と申しますが・・・」

 先ほど自分の家の前を通る足音を聞いたから隣人が在宅中なのは確認済みだ。

いや、もしかしたらそれが彼氏か彼女のものなら分からないが、毎日毎日同じ時間のことだから多分本人だろう。

ということは足音の感じからして隣人の安田忍は男か、と返答を待っている間に勇はそんな考えを弾き出していたのだが・・・。

いくら待っても返答はない。

 電気はついているし、シャワーの音も聞こえないから寝ているとか、風呂に入っているということはないだろう。

電気をつけっぱなしで寝てしまったのかもしれないが、中からは人が動く気配がしていた。

「(居留守か?)」

 無意味なことをする。と、騒音に悩まされている上にシカトされているということに、勇は妙に腹が立つ。

知らずドアノブを手にしていたらしく、勢いでそれを回せばそれはあっさりと右に回ってしまった。

不用心な奴め。

そう思いながらも文句を言うくらいは良いだろうと、勇の部屋と同じく外開きのドアを手前に引く。

しかし瞬間広がった光景に、勇は声もなく立ち尽くしてしまった。

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あきゅろす。
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